「敷金0円、礼金0円、仲介料0円」でワーキングプアなどを賃貸住宅に誘い込み、1日でも家賃の支払いが遅れると多額の違約金を請求する。「ゼロゼロ物件」と呼ばれる貧困を食い物にした新手の悪徳商法が横行している。
初期費用が安いことから、「ゼロゼロ物件」は住宅情報誌や街の不動産屋の店頭でも頻繁に見かけるまでに増殖している。
被害対策弁護団が15日結成され、記者会見が日本弁護士会館で持たれた。会見では被害者が実名で実態を明らかにした。
細坂達矢さん(フリーター・20歳)は2006年11月に東京都区内の「ゼロゼロ物件」に入居した。家賃は5万8,000円。この物件に決めたのは「敷金・礼金・仲介料がゼロ円」だったからだ。
住み始めて1年もしないある月、細坂さんは家賃の支払いがわずか1日だけ遅れた。それから4~5日後だった。部屋に帰るとドアの鍵が使えない。そのドアに仲介した不動産業者のメモが挟まれていた。「違約金を支払えば新しい鍵をお渡しします」。
細坂さんは違約金2万1,550円を銀行に振り込み、新宿にある不動者業者のオフィスに出向くと新しい鍵が渡された。不動産業者は違約金を半ば強制的に取り立てる物理的手段として鍵を変えたのだ。
細坂さんはこれまでに3回違約金を支払わされた。いずれも家賃の支払いが1日遅れただけだ。2万1,550円×3=6万4,650円になる。
細坂さんが「どうして鍵を変えるのか?」と不動産業者に聞くと「鍵の会社が勝手に動いてやってしまうので私たちではどうしようもない」。まるで子供だましのトボケようだ。
Aさん(フリーター・30代)の場合、被害はさらに深刻だ。引越し資金がなかったので東京・多摩地区の「ゼロゼロ物件」に06年9月、入居した。細坂さんと同じ不動産業者(新宿区)の仲介物件だ。
ある月、家賃の支払いが遅れると不動産業者の社員がやって来て「鍵を交換するから出ていってくれ」。2回目はAさんが寝ている時に何も断りなく部屋に入ってきて「出ていってくれ」と言って鍵を変えられた。
Aさんはその都度違約金を払い、新しい鍵をもらった。違約金は細坂さんと同じ2万1,150円(ただし2007年9月から2,000円増額されている)で13回も払った。総額で25万円~30万円になる。家賃支払いの遅れは1日~5日だった。
「鍵を変えられると仕事の道具も取れなくなるので困った。生活がムチャクチャになった」とAさんは憤る。
取締りを政府、東京都に要求
5万8,000円の家賃に対して2万1,150円もの違約金を取ることは、違約金の上限を定めた消費者契約法9条2項に違反する。法律で定められた上限は14.6%だ。細坂さんとAさんが支払った金は37%にものぼる。明らかに消費者契約法違反である。
法律違反の指摘を免れるために不動産業者は「施設再利用料」とか「生存確認出張料」と言った名目をつけているが、弁護団は「違約金」と見ている(本稿の表記もそれに沿った)。
借地借家法では借り主の権利が守られており、家賃の支払いがわずか1日遅れただけで「出ていってくれ」とは言えない。借地借家法の適用を免れるため不動産業者は物件のことを「鍵付き施設」と主張している。だが被害弁護団は「実態は借家で、借地借家法の脱法行為」と見ている。
弁護団長の宇都宮健児弁護士は「『1カ月滞納で借主は退去』の契約でさえ無効。判例では半年滞納で貸主が借主に退去を要求できる」と話す。わずか1日の支払い遅れで追い出すことは、明らかに違法なのである。
細坂さんとAさん以外にも「所持品を勝手に捨てられたりした」ケースも報告されている。
宇都宮弁護士は「貧困層をターゲットに困窮・無知につけ込んだ(悪徳)ビジネスだ。取り締まりを政府や東京都に要求する」と険しい表情で語った。
被害対策弁護団では26日に電話相談会を開く。
問合せ先:03-3352-7177