ケヤキ並木に沿って4~5階建ての集合住宅が整然と並ぶ。千葉県松戸市の常盤平団地は、旧住宅公団が1960年に完成させた日本で最も古い大規模団地のひとつだ。
日本が高度成長を謳歌していた頃のテレビドラマに登場してくるような「モダンな街」にも高齢化の波は容赦なく押し寄せる。全5,359戸のうち65歳以上のお年寄りが占める高齢化率は39%。一人暮らしの老人は600人を超える。それを象徴するような出来事が立て続けに起きた――
2001年春のことだった。死後3年が経過した73歳の男性の白骨遺体が団地で見つかったのだ。月3万1700円の1DK家賃をはじめ水道料金、光熱費などは毎月男性の預金口座から引き落とされていた。4年目にして預金が底をつき家賃不払いとなったため催促に行った担当者が見つけた。引き落とし金額は3年間で120万8,880円に上った。
男性は離婚して一人暮らし。兄弟姉妹はいるが連絡は一切なかった。
翌2002年には50歳の男性がコタツの中で死んでいるのが見つかった。腐乱死体だった。下の部屋の住人が異臭に気付き明らかになったのだ。この男性も妻と子供とは別居していた。コタツの周りはカップラーメンや酒のワンカップがたくさんあったという。
「これ以上、孤独死を出してはならない」。団地の自治会や社会福祉協議会が中心になって結成したのが「まつど孤独死予防センター」だ。
「世話人」と呼ばれる団地の住民たちが交代で、独居世帯の安否確認やサロンの運営などを行う。ベランダの洗濯物が長期間干され放しだったり、郵便物が溜まっているのが分った時はただちに訪問する。サロンは一杯100円のお茶でお年寄りたちが四方山話に花を咲かせる憩いの場だ。
いずれも「一人きりにしない、孤独感に陥らせない」という考えからだ。こうした取り組みの結果、孤独死は激減した。常盤平団地地区社会福祉協議会の大嶋愛子理事会長(75歳)は、昨年春、75歳の男性が息を引き取っているのを発見したが、まだ体温があった。
地域の絆がまだしっかりとあった40~50年前の地方の町村では、皆がご近所の暮らし向きを把握していた。たった一人の爺さま、婆さまが病気になっても近隣で助け合った。1~2日ほどだったら近所の子供を預かったりもした。
都市化と核家族が進み、人の輪は姿を消していった。同予防センターのリーダー格で常盤平団地自治会長の中沢卓実さん(76才)は「孤独死、高齢者不明、自殺の根っこは同じ」と力を込める。
東京・足立区で111歳の男性が遺体で発見された事件をきっかけに、全国各地で老人の孤独死や行方不明の発覚が相次ぐ。孤独死や高齢者行方不明の実態やそれらを防ぐ取り組みを順次リポートする。
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