サイバー時代の治安維持法と言われる「PC監視法」勉強会からの帰り道、“事件”は起きた。矢野健一郎さん(実名=有機農産品販売業・43歳)は、「脱原発デモ」や「記者クラブ解体デモ」などでリーダー役を務める熱心な市民運動家だ。PC監視法案の成立が目前に迫る6月、法案に反対して国会前で座り込む矢野さんの姿があった。
座り込みの余韻も冷めやらぬ6月15日夕、渋谷の道玄坂を登り切った所にある出版社の会議室で「PC監視法」の勉強会は開かれた。
2時間ほどの勉強会がお開きとなった後、矢野さんは勉強会参加者と共に近くの居酒屋『天狗』の暖簾をくぐった。日本酒2合、チューハイ3杯、ワイン1杯を飲んだ。矢野さんは飲み足りず、井の頭線ガード下の焼き鳥屋へ。チューハイ2杯を口にした。酒豪で鳴る矢野さんにとっては適量未満である。意識もはっきりしていた。
焼き鳥屋を出ると井の頭線に乗り帰路についた。明大前で京王線に乗り換える。八王子方面に向かう列車で、矢野さんが乗ったのは先頭から3両目の車両だ。車内はやや混雑していたため、矢野さんは立っていた。
列車が千歳烏山駅にさしかかる時だった。矢野さんは20代後半の女性に後ろからいきなり腕をつかまれた。「アンタ、触ったでしょ」、女性は車内に響き渡るような声をあげた。
矢野さんは腕をつかまれたまま、千歳烏山駅のホームに降ろされた。列車を降りるや、女性は「この人チカンです」とよく通る声で告げた。数秒もしないうちに男3人、女1人(腕をつかんだ女性除く)が矢野さんを取り囲んだ。
ひとりの男が「どうしました?」とわざとらしく尋ねた。別の男が駅員を呼びに走った。駆け付けた駅員は「事務所に行きましょう」。事務所に行ったらお終い、と知っていた矢野さんは拒否。
駅員が女性に「警察を呼びましょうか?」と聞くと、女性は「呼んで下さい」と用意していたかのように間髪を入れずに答えた。10分後に警視庁のパトカー2台が到着。矢野さんの戦いが始まった……
(つづく)