
ブルハン・ガリユーン議長。1945年、シリア・ホムス生まれ。=11日、フォーリンプレスセンター。写真:筆者撮影=
「アラブの春」の流れを受けて反体制派が蜂起してから1年余りが経つシリア。リビア、エジプト、チュニジアと違って独裁政権は容易に倒れない。
国際社会の支援を取り付けたいシリア反体制勢力のトップ、ブルハン・ガリユーン国民評議会議長が来日、11日、フォーリンプレスセンターで記者会見を開いた。議長は「国連介入による政治決着」を強調した。
シリアはハーフェズ・アサド前大統領(現大統領の父)の統治時代から独裁政権が48年間も続いてきたため、社会的勢力がほとんど育っていない。
「民主化プロセス、革命の進行が弱い。現体制がイランのヒズボラから支援を受けている。国連安保理にも中国とロシアがいる」。議長はこう表現した。
現体制については次のように話した。「民主化を実現するにはアサド大統領を退かせて臨時政府を作る。アサドを残して民主化を実現することは不可能。アサド政権は暴力により成り立っているだけだ」。
質疑応答は以下の通り――
記者:国連監視団はどのように評価するか?
議長:アサド政権はありとあらゆる手で(国連特使の)アナン調停案を挫折させようとしている。10日、ダマスカスで起きた爆発事件は、国連監視団を恐怖に陥れる手法だ。
大学教授:アサドを退陣させるための政治的解決とはどのようなものになるか?
議長:アサド政権はアナン調停案を受け入れたが、何一つ履行していない。軍も撤収されていない。政治犯の釈放も行われていない。拷問も続いている。国民の自由な集会も禁止されている。
記者:リビアのカダフィ政権打倒は欧州諸国の軍事支援が効果を発揮した。ところがシリアの場合、それには至っていない。どう見るか?
議長:国際社会はシリア国民を守るべきだと思っている。国連、国際社会のさらなる支援を期待する。自由シリア軍も行動を起こしている。(欧米には)民間人を守る活動を期待している。
研究者:外国の介入として、アナン特使以外に残された選択肢はどんなものがあるか?
議長:今の革命運動に対する支援を行っていく。シリア自由軍への支援。国内の抵抗運動への支援。それだけではないが…(議長は含みを残した)。
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仏ソルボンヌ大学教授のガリユーン議長は、欧米諸国からの受けは良いが、国内基盤は弱い。=写真:筆者撮影=
記者会見に出席していたシリア出身の研究者は次のように話す――
「ガリユーン議長は外国滞在が長かったので、国内での人気はあまりない。軍事介入を招けば近隣国の影響を色濃く受けイラク、レバノンのようになる。だからといって軍事力なしでアサド政権は潰せない。暗殺という手段も残されている」。
議長は中国に立ち寄り楊外相と会談した後、来日した。アサド体制への制裁を審議する国連安保理で中国の同意を取り付けるのが狙いだ。
歴史的・経済的にも欧州との関係が濃いリビアとは条件が異なる。「地政学的に非常に利害関係が多いことが、状況を難しくしている」。議長の言葉に遅々として進まないシリア版「アラブの春」の現実が凝縮されていた。
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