選挙イハン今昔、買収は小規模になったけれど…

 自民党の菅原一秀衆院議員(東京9区)の陣営が地元の支持者らにメロンを贈った疑いが浮上している。一玉2千円(1箱2~5個入り)で、計133箱。しめて75万8千円也という。ただし贈ったのは2007年夏。外形的事実のみを問えば公職選挙法199条が禁ずる「特定寄付」にあたるが、立件は難しいかもしれない。

それでも新聞や週刊誌は「公選法違反の疑いがある」と賑々しく書き立てている。不謹慎を承知で言えば、中選挙区制の時代、「しめて75万円」は買収とは呼べなかった。中選挙区制での選挙は金がかかったのである。

 誇張はあるが、「5当4落」という標語さえあった。金権政治が代名詞となった田中(角栄)派の全盛時頃から、政界関係者の口の端に上るようになった。候補者はまっとうな事務所経費、買収資金などを含めて5億円使えば当選するが、4億円止まりだと落選するという意味だ。

 多額の費用を捻出するため政治家は収賄など危ない橋を渡らなければならなかった。資金力に乏しい候補者は派閥から相当の援助を受けた。田中派の次世代である竹下派は「国会議員を作る」とまで表現していた。それに必要な資金は1人あたり3~5億円だというのである。

 票を取りまとめる地域のボスには札束をわんさと詰めた菓子箱、みかん箱が渡されていた。最末端で買収される一有権者に渡る金額は1万円~3万円だ。だが有権者もしたたたかで、A陣営から2万円、B陣営からは3万円もらったりする。

 こうなると陣営は単純に現金を渡すだけでは票が買えなくなる。そこで今度は投票所への入場券を買収するのである。そして投票にはバリバリの運動員が行く。根っからの運動員であれば、間違いなく自陣営の候補者の名前を書くからだ。これでやっと確実に票を買収したことになる。

 ひとつの選挙区に自民党の公認候補が3人も4人も立つのだ。資金力が豊かな陣営同士が競い合えば、買収はつきものとなる。ライバル候補から20票をぶん取ってくれば40票の効果となるのだから、陣営は危険を冒してでも「買収戦術」に頼りたくなる。接戦になれば尚更だ。

 買収で警察に先ず逮捕されるのは、有権者に直接現金を渡しに行く運動員だ。彼らは「打込み屋」と呼ばれる。次に逮捕されるのは「打込み屋」に資金を渡す小ボスだ。こうしてイモヅル式に上がって行く。

 買収資金の金庫は「裏選対」にあった。裏選対は何げない普通の民家に置かれていたりした。逮捕した運動員の供述がうまく取れ、裏選対の金庫番逮捕まで行き着くことがたまにあった。「裏」なのでたとえ逮捕されても連座制は適用されない。候補者にとっては実に有難い存在だ。

 今のように無党派層だの風だのとは縁遠かった時代、接戦となった選挙では裏選対は当落を左右した。警察が選挙違反の摘発に乗り出すのは投票が終わってからだが、捜査は選挙前から進めている。金の流れ、裏選対の運動員の動きを一部始終押さえているのだ。

 公務員は社会党支持、商店主や会社経営者は自民党支持などとほぼ決まっていた時代だ。商店主、会社経営者でも小規模だと共産党支持があったりするが、『赤旗』購読者をきっちり把握するのは公安警察のイロハだ。買収で買われるであろう票に加えて、こうした基本情勢を押さえた警察署長の「票読み」は実に手堅かった。

 違反を取り締まる組織のトップが選挙情勢に明るかったのである。どれだけ金が選挙を左右していたかということだ。

 だが中選挙区制の時代、与野党を問わず上位当選する政治家は、支持者の家庭や職場の事情を知り抜いていた。「あの家の息子は今年高校に上がり、娘は中学校・・・」などと諳んじていた政治家はザラにいた。目線は国民の生活を向いていたような記憶が「政治家の匂い」と共に残っている。

 小選挙区制度の下、選挙違反という危ない橋を渡らなくなった2世・3世議員たち、風頼みで当選した議員たちにこの匂いは感じられない。

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