テレビ選挙速報の舞台裏バラシます

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政党本部からのテレビ中継も開票速報の売り物だ(撮影=山本宏樹)

 
 明日(30日)は、有権者が主人公となる政権選択選挙の投開票。小泉劇場で有権者を投票に駆り立てた前回の総選挙(2005年=67・51%)以上の投票率になるものと予想されている。視聴率を稼ぎたいテレビ各局は30日夜、いずれも「選挙特番」を組む。

 総務省から指導を受けたりと人騒がせな「テレビ選挙速報」の舞台裏はどうなっているのだろうか――。

【投票箱のフタが閉まる午後8時ちょうどに有力候補者の「当選(NHKは 当確)※注」が出るのはなぜか?】
 投票用紙を数え始めてもいない時間なのに「当選」と分かるのは確かにおかしい。中学生でも変だと思うはずである。

 仕掛けはこうだ。選挙区の情勢について記者の取材や世論調査で「A候補=○○票」「B候補=○○票」……と絞り込む。これを「票読み」と呼ぶ。そして投票当日の出口調査で1位候補が「票読み」通りに順調に出ていれば、投票が終わる午後8時を待って「当選(NHKは当確)」を出す。

【その時点の得票数では2位候補なのになぜ「当選(NHKは当確)」と報道するのか?】
 開票作業は市町村選挙管理委員会ごとに行われる。有権者が多い都市部ほど開票結果が判明するのが遅くなる(投票用紙が多いからだ)。都市部で他候補より多くの得票が見込まれる候補は、その時点では2位でも「当選(NHKは当確)」を出す。周到な「票読み」取材と出口調査に基づくものだ。

【「当選(NHKは当確)」の誤報はなぜ発生するのか?】
 2つのケースがある。一つは甘い「票読み」取材。政党間の裏取引や投票前日の深夜(投票日の未明)に動く票などもカウントしなければならない。ここがズサンだと情勢を見誤る。誤報が発生するのは接戦の場合だ。余計に綿密な「票読み」取材が要求される。

 もう一つはコンピューターへの入力ミス。とくに予想得票総数を間違って少なく打ち込んだりすると、まだ形勢がはっきりしていないにもかわらず、その時点での1位候補に「当選(NHKは当確)」が出たりする。

【当落判明後の映像にこそ選挙戦の真実がある】
 「○○候補は○○党の支持層を固めた他、無党派層にも支持を広げ得票を伸ばした」などとキャスターが決まり文句を垂れる。こんなものは情報でも何でもない。当り前のことだ。

 当落判明後、当選候補の選挙戦を振り返った映像が流されるが、この中にこそ「だからこの候補者は当選したのか」と思わせる映像情報が込められている。「あれっ、この有力人物はこれまで自民党側についていたのにこの映像では民主党側だぞ」と一目で分かるカットがあったりする。地殻変動を雄弁に物語る映像だ。

 また「勝手連がこれだけ活発に動けば無党派層の支持が得られて当然」と分かったりするのも映像の説得力だ。開票前にこうした映像を流すと公選法で定めた「公平の原則」に反するので、当落が判明するまで待っているのだ。

 ご存知の有名人や大物が写っていないか、目を凝らしてテレビを見よう。

【日頃あやふやな報道を垂れ流す局は選挙報道も同様】
 確度が高く豊かな情報を持っている記者には、陣営の選挙参謀のトップが対応する。記者は当落を左右するほどの情報を小出しにし、見返りとして参謀からは「すでに固めた票数。ライバル候補から剥がしに行く目標票数」などの情報を得る。

 こうした記者を多数擁している局の選挙報道は充実している。日頃の報道もしっかりしている。その逆が日頃あやふやな報道を垂れ流す局だ。選挙報道も同様にいい加減だ。選挙情勢取材、選挙報道は特別なことをするわけではないからだ。

【女子アナの独自コメントは眉にツバつけて聞け】
 アイドル・タレントと見間違えるような女子アナを党大会や国会外での党首討論などでよく見かける。彼女らの中には政治家にマイクを出してインタビューした位で政治が分かったようなコメントをのたまう手合いがいる。

 彼女らは選挙報道もこんな調子だ。選挙という「票取り合戦」は、水面下で生き死にをかけて繰り広げるものだ。マイクの前で水面下の工作を明かすバカな政治家やマヌケな参謀はいない。

 記者の書いた原稿を読むのならともかく女子アナが独自で吐いたコメントは眉にツバをつけて聞いた方がよい。

 ※注:テレビ局による「当選(NHKは当確)」
 当選は得票数を集計している各都道府県の選挙管理委員会が、2位の候補が残り票数全てを得ても1位候補には並ばないと判明した時点で宣言する。だが選管の宣言を待っていたのでは速報にならないので、民放各社があくまでも「私報」として「当選」と報道する。

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 速報の競い合いもさることながら、テレビ各局は演出面でも勝負をかける。「テレビ朝日」は、古館伊知郎キャスターの司会に朝日新聞政治コラムニストの星浩氏と時事通信・解説委員長の田崎史郎氏が加わる。「TBS」はキャスターでベテラン政治記者の後藤謙次氏の解説にビートたけしの毒舌が炸裂する。

 好対照なのが「フジテレビ」だ。テレビ界きっての美女・滝川クリステルと1番人気の高島彩の2枚看板で高視聴率を狙う。どの局を選ぶかは視聴者の好みしだいだ。筆者はインターネットで当落の情報を得ながら、「フジテレビ」で視覚的に楽しもうと目論んでいる。

 日本の政治風景が劇的に変わる総選挙をどう伝えるか。30日の夜が楽しみだ。 

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