米国のオバマ大統領が苦渋の決断を下した。アフガニスタン駐留米軍を3万人増派する一方で、2011年7月から撤退を開始することを正式発表したのである。
初めて出口戦略を盛り込んだオバマ政権の新しいアフガニスタン政策の骨子は以下―
・半年以内に増派する。
・増派部隊は戦闘用員とアフガン国軍指導用員。
・戦闘用員はタリバーン勢力の強いカンダハール州とヘルマンド州に展開する。
・パキスタンとの連携強化。
・駐留米軍は2011年7月から撤退を開始する→アフガン国軍に治安権限を移譲。
過半数の国民と身内の民主党が反対するアフガン駐留米軍の増派を発表したオバマ氏は、開戦に至った理由から説き始めた。「米国の政治経済の中枢を攻撃した『911テロ』を実行したのはアルカイーダだったが、その基地がアフガニスタンだった」と。
アルカイーダは現在、パキスタン国境の部族地帯やパキスタン国内に潜伏しているとされている。オバマ氏が「パキスタンとの連携強化」を挙げたのはこのためだ。さらに深刻な理由がある。パキスタンが核保有国であることだ。オバマ氏は「アルカイーダが核ジャックを企てていることは周知の事実だ」と強調する。アルカイーダの力を削ぐには、パキスタンの協力が不可欠というわけだ。
オバマ氏は「米軍撤退後の治安対策」についても方針を述べた。「アフガニスタンの治安はアフガニスタン人自身が責任を持つべきだ」として、米軍はアフガン国軍の指導を強化する。
給料がタリバーン兵の半額しかない国軍兵士の士気は低い。精強なタリバーンやアルカイーダを前にして治安を維持できるだろうか。極めて疑問だ。オバマ政権の出口戦略は明快とは言えないようだ。
【イスラム世界との良好な関係目指すオバマ氏】
オバマ氏は「相互の利益を考えることが紛争の連鎖を断つ」との理由から「米国とイスラム世界との関係構築に力を注ぐ」とも語った。ブッシュ前大統領に大きな影響を及ぼしていた「キリスト教福音派」的思想との決別だ。福音派はネオコンと呼ばれる人たちの思想的基盤である。
イスラム教徒の聖地であるアルアクサの丘を更地にしてユダヤ神殿を再建すれば、キリストが再降臨すると思い込んでいるのが福音派の人々だ。当然イスラム教徒を敵視するようになる。
イラク戦争とアフガン戦争は石油利権、天然ガスパイプライン敷設の思惑などが背景にあったが、イスラム教徒を敵視する思想が根底にあったことも否めない。
その点、イスラム世界と良好な関係を築こうとするオバマ氏の姿勢は評価できる。
アフガニスタン戦争は、無辜の市民に多大な犠牲者を出して、戦域をパキスタンにまで広げ、治安を悪化させただけだった。ブッシュ政権の負の遺産は余りにも重い。景気後退にあえぐ米国の経済再建とアフガン戦争の続行は両立不可能だ。オバマ大統領が十分な出口戦略を示せないまま、撤退時期を明示しなければならない事情だった。
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