国策捜査に加担したマスコミが、有罪の確定した政治家の収監前の記者会見を仕切る。検察と記者クラブの不適切な関係を象徴するような光景だった。
6日、収監手続きのため東京高検に出頭した鈴木宗男前代議士の記者会見は検察庁々舎前の敷地内で行われた。日頃は、取材相手と話すのにわずか1ミリでも検察庁の敷地内に入っていると守衛から追い出されるのだが、今回は違った。
記者クラブと検察当局が調整したのである。検察の広報担当者が現場に来て幹事社を確認した後、報道陣に「(鈴木氏は)あちらの方向から歩いて来ますんで。来たらあまり(会見の)時間はありませんから」とまで教えてあげていた。
両者の持ちつ持たれつの関係が顔をのぞかせた。日頃から検察寄りの報道で協力してくれる記者クラブに検察庁が会見の便宜を図ったのである。
午後1時ちょうど、鈴木宗男前衆院議員は息子で秘書の行二氏らと共に東京高検前に姿を現した。目は真っ赤だ。「真実が明らかにされず悔しくて残念。これからも間違った権力とは闘ってゆく」とよく通る声で語った。
記者クラブの質問は実に馬鹿げていた。質問は計4件。「家族とどんな話をしたか?」「北海道民は残念がっていないか?」「収監という結果になって自身の政治活動に悔いは?」「朝食は何を食べたか?」。検察の捜査に関する質問は一つもないのだ。
堪忍袋の緒が切れた筆者は記者クラブの仕切りであることは分かっていながら鈴木氏に質問した―
田中:「リーク報道をどう思うか?」
鈴木:「権力が仕掛けたものでマスコミは権力に使われている」
田中:「記者クラブが権力に使われたのか?」
鈴木:「私への国策捜査を機に記者会見にフリージャーナリストも入れるようになった。オープン化もされるようになった。一石を投じたと思っている」。
週刊誌の記者が続いた。「鈴木さんが刺された(逮捕・起訴された)理由は何だと思うか?」
鈴木:「事実が明らかにされないまま密室で創られた調書、シナリオ、ストーリーで一人の人間を抹殺するのは公平ではない。司法の危機だ」
鈴木宗男氏が逮捕・起訴された頃、検察リークを受けた報道の洪水は凄まじかった。北方領土支援に絡むものはすべて鈴木氏が賄賂をもらっているかのように伝えていた。「ムネオハウス」は当時の流行語ともなったほどだ。
だが裁判で有罪となったのは、「やまりん事件」「島田建設事件」「政治資金規正法違反」「議員証言法違反」の4件。北方領土に関する事件は一件もなかった。
有罪となった「やまりん事件」「島田建設」は、贈賄側とされる業者に対して検察が無理な供述調書を取ったことが当事者によって明らかにされている。「政治資金規正法違反」は揚げ足取り、「議員証言法違反」は巧妙に嵌められたものだ。
新聞・テレビは当時「鈴木宗男は北方領土支援で汚職まみれ」であるかのように報道していたが、そのような事実はなかったのであある。
埼玉から鈴木氏の出頭を見届けるために訪れた男性(60歳)は憤った。「裁かれるべきはマスコミ。嘘の検察リークをさんざん垂れ流したにもかかわらず何ら釈明していないのだから。冤罪なのに選挙民が選んだ代議士をこんな簡単に失職させてよいのか」。
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