生活保護切り下げの底なし沼 “低所得世帯基準”に合わせるマヤカシ

「生存権を脅かすな」「命を脅かす政治と戦うぞ」。生活保護受給者や支援者はシュプレヒコールをあげた。=18日朝、厚労省前。写真:島崎ろでぃ撮影=

「生存権を脅かすな」「命を脅かす政治と戦うぞ」。生活保護受給者や支援者はシュプレヒコールをあげた。=18日朝、厚労省前。写真:島崎ろでぃ撮影=

 最後のセーフティネットが危うくなろうとしている。厚労省は16日、生活保護の支給額を引き下げ、支給基準を厳しくする方針を表明した。今年4月1日から実施されそうだ。

 生活保護申請をさせないように福祉事務所や市・区役所の窓際で生活困窮者を追い返す「水際作戦」という方策がある。厚労省は、この「水際作戦」を奨励して生活保護費の圧縮に務めてきた。

 2006~7年に北九州市で連続して起きた餓死、孤独死事件をご記憶の方々も少なくないだろう。

 北九州市役所は生活保護の申請に来た人たちに申請書類を渡さなかったのである。厚労省は全国自治体の生活保護担当者を集め、「北九州方式」を見習うよう“指導”していた。文書ではなく口頭で、だ。痕跡を残したくなかったためと見られる。

 政権公約で「生活保護費予算の10%削減」を謳っていた自民党の政権復帰を受けて、厚労省は大手を振って生活保護支給額の削減と基準厳格化に踏み出したのである。

 「生活保護受給世帯の支出の方が、低所得世帯の支出よりも高い」。厚労省は『生活保護基準部会』の報告書を一昨日から今日にかけ記者クラブメディア(新聞、テレビ)を使い喧伝している。『生活保護受給者の方が働いている人より良い暮らしをしているのは理不尽だ』という理屈を国民に刷り込むためだ。

 ところが算定データたるや実に身勝手なのである。『生活保護基準部会』が抽出した低所得世帯には、何らかの理由で生活保護を受給できなかったり、追い返されたりした世帯が含まれているのだ。当然、支出も収入も生活保護受給世帯よりも低くなる。

 日本では年収200万円以下のワーキングプアが1,000万人を超える。生活保護の捕捉率が先進国でも低い部類だ。ここに算定基準をもってくれば低所得世帯の収入、支出は底なしに低くなる。

 「国民全体が低所得になっている時にこの手法(算定方法)を使ってよいのか? 怒りで一杯だ」。『生存権裁判を支援する全国連絡会』の前田美津恵事務局長は話す。

弱者切り捨ての厚労省に怒りを募らせる支援者。=写真:島崎ろでぃ撮影=

弱者切り捨ての厚労省に怒りを募らせる支援者。=写真:島崎ろでぃ撮影=

 「生活保護に大ナタ」の方針がまさに決定されようとする18日の朝、厚労省前で受給者や支援者が抗議の集会を開いた。

 「7年前、精神疾患を患い、働けなくなった。派遣社員として30万円の月収を得ていたが、仕事が無くなり、貯金を取り崩しながらの生活となった。やがて貯金が底をついたため、ティッシュ配りなど日雇いのアルバイトをしながら水と米で凌いだ。(栄養失調で)失神しそうになるくらいの状態で働いていた。去年8月、3回めの申請で通った。とはいえ、生活保護の家賃分は一か月遅れで来るので月末の家賃の支払いが大変。」(36歳女性、都内在住)

 同様に精神疾患を患い、2005年から働けなくなった女性(30代・千葉県在住)は、現在生活保護を受給している。彼女は切々と訴えた―

 「生活保護は偏見が根強いが、そのおかげで生きていける。この制度をなくしてはいけない」。

(文・田中龍作/諏訪都)

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