これはプロパガンダではない。田中がありのままを撮った写真だ。
ウクライナ大統領府前に飾られた「ロシアからの独立30年」を祝うモニュメントの前で、女の子は無邪気に微笑んでいた。それを父親はスマホのカメラに収める。
どこにでもある自然な光景だ。欧米型の政治体制がいいのか。それともソ連ロシア型がいいのか。ここではあえて問わない。
ウクライナ警察が日本人ジャーナリストである田中に優しい。気持ちが悪くなるほどだ。機動隊の顔を撮っても咎められることはない。
大統領府前で顔見知りになった女性警察官はハイタッチで迎えてくれる。
社会活動家に聞くと「それは日本が同じ陣営だからだ」と当たり前のような顔で答えた。
治安機関はロシアの侵攻に関わる機微な情報をつかんでいる。いざという時のために、“同盟国”から来たジャーナリストを味方に引き入れておきたいのだろう。
子どもの顔は世相を映し出す。2014年、クリミア半島に電撃侵攻したロシア軍は、次々とウクライナ軍基地を陥れた。
ロシア軍に包囲されても将兵が投降しない空軍基地があった。
母と娘が夫(父親)を慰問したが、基地の中に入ることは許されない。会話は鉄柵越しとなった。
最終的にはほぼ全員投降したようだが、クリミア半島に配置されていたウクライナ兵は、幸せにはなっていないようだ。極寒のシベリアに配属された将兵もいたと聞く。
父は将来を察し、娘はそれを感じ取っていたのだろう。
子どもの表情をしっかりと写せば、何万言費やすよりも正確に国情を伝えることができる。プロパガンダは不要だ。
~終わり~