「音声よろしいですかっ?」「ハイ、3、2、1」。ディレクターのきびきびとした声が響く。照明は煌々(こうこう)とたかれ、カメラが回り始めた・・・・・・。
といっても、ここはテレビ局のスタジオではない。日本政治のメッカ永田町に隣接する東京・平河町は、新党日本の本部事務所だ。
「きょうは国会が解散しましたですネ。みんな帰って来れるのか分からないのに何で万歳するんですかネエ。もう、村の祭りの青年団ですネエ。ハイ・・・」。ユーモラスな語り口でマイクに向かっているのは、新党日本の田中康夫代表だ。
インターネット動画でおなじみの「ニコニコ動画」のライブ放送が21日夜行われ、田中代表が生出演した。番組のタイトルは「新党日本ネット街頭演説@事務所」。
WEB上に再生される動画にユーザーがリアルタイムでコメントをつけることができるのが「ニコニコ動画」の特性だが、同夜はそれをライブで行ったのである。
出演者(田中氏)は予告もなく大量に送り付けられてくるコメントに瞬時に答えなくてはならない。自民党の両院懇談会のように着地点が予め決められたシナリオなどとは無縁だ。頭の瞬発力が要求される。ユーザー(視聴者)を飽かせない面白さも必要だ。
「チェ・ゲバラも坂本龍馬も愛する人のために既得権益と戦い続けてきた」と田中氏が語りかけると、言葉が終わらないうちに「共産ゲリラになりたいのか?」とユーザーからコメントが来る。
「違うんだな~。そういう古い思想じゃないんです。ひるまず、屈せず、逃げずの精神なんです」。田中氏は間髪を入れずに切り返した。
「田中康夫は『児童ポルノ禁止法』に賛成か?」のコメントには「この法案を考えた人は、暗~い青春時代を送っていたんでしょうね。学生時代に六法全書と首っぴきだった検察官、(キャリア)警察官出身の政治家や官僚が考えたんじゃないんですか」と答えた。
漫談の中にしっかりと政界の真相を散りばめて答えるあたりはさすがだ。これだと政治に関心が低い若者にも分かりやすい。
ユーザー(視聴者)からのコメントは雨あられのごとく寄せられ、田中氏は速射砲のごとく答えを撃ち返していった。番組は予定をはるかにオーバーして2時間近く続いた。終わった時、時計の針は24時を回っていた。
30年前「なんとなくクリスタル」で小説家デビューして以来、メディアの世界を泳いできた作家・田中康夫氏なればこその業だ。発信力の凄さには改めて舌を巻いた。
「インターネット選挙の解禁を阻んでいるのは古いタイプの政治家」という説がある。だが若手政治家でも相当な発信力がなければ、インターネット・ライブ放送は使いこなせない。解禁されたら候補者はユーモアのセンス、鋭く真相を突く能力が試されることになるだろう。政治家の質を高めることになるのか、それとも新しいタイプの「電波芸人」を生むことになるのか・・・・・・