菅政権と記者クラブメディアが抱き合い心中する光景を年の瀬まで見せつけられた一日だった――
党本部で開かれた27日の役員会に菅直人首相は出席した。首相が役員会に出席するのは異例である。首相自らが出席することで小沢一郎元代表の政倫審招致にメドをつけるためだ。
午後2時ちょうど、菅首相は役員室のある党本部6階に姿を現した。口を真一文字に結び顔は石膏で固められたようにこわばっている。目は飛んでいた。首相は小沢氏に政倫審への出席をこれまで2度求めたが、決裂している。それだけに悲壮な決意を秘めて役員会に臨んだのだろう。
首相は役員会に1時間20分も列席した。これも異例である。その甲斐はとりあえずあったようだ。役員会の後、岡田克也幹事長が記者会見し次のように明らかにした。「小沢氏が政倫審出席に応じない場合、通常国会前に(招致の)議決に踏み切る方針を決めた」。
政倫審は国会で議決しても強制力がない。小沢氏本人が重ねて「出ない」と言っており、実現の可能性は極めて低い。野党の自民党、公明党は同調しないことを早くから明言している。
強制力のある証人喚問は全会一致が原則だ。菅氏に散々煮え湯を飲まされてきた国民新党は賛成しないだろうから、これまた実現性は低い。
小沢氏への離党勧告に向けて手順を踏んでいるつもりなのだろうが、国民の目にはドタバタ劇にしか映っていない。茨城県議選(12日)と西東京市議選(26日)の惨敗が世論の反発を如実に示している。
失業者は増えるばかり。マニフェストは悉く破られる。「頼むから政権党としての仕事をちゃんとしてくれよ」というのが国民の悲痛な叫びだ。
【ルール破り、私語のTBS】
菅政権と同じく国民生活などこれっぽっちも考えていないのが新聞・テレビだ。役員会の結果を受けた岡田幹事長の記者会見で、記者クラブメディアからは十年一日のごとく同じ質問しか出なかった。「党の決定に従わなかった場合、小沢氏の処分はあるのか?」「役員会では『小沢元代表を証人喚問に』という意見は出なかったのか?」・・・
小手先のくだらない質問に耐えかねた『週刊金曜日』の伊田浩之氏が岡田幹事長に聴いた。「小沢氏の国会招致が国民生活に優先するのか?」と。
岡田氏は「税制など国民生活に関わることも粛々と進めている。政治とカネは民主党にとって重要なテーマ」と答えた。
小沢氏の政倫審出席をめぐる質疑応答が続くなか、元TBSキャスターの後藤謙次氏が指名された。後藤氏はいきなり「東京都知事選について・・・」と質問し始めたのだ。
関連したテーマで質疑応答し次のテーマに移る、というのが岡田幹事長記者会見でのルールだ。幹事長は「ちょっと待って下さい」と言ってルールを説明し、その質問は後にするように促した。
ところが後藤氏は「時間がないので」と言い張り、都知事選についての質問を再び始めようとした。司会役の岡島一正副幹事長が「ルールですので」と強く制し、後藤氏のゴリ押しをなんとか止めることができた。このオジサン、有名政治記者ならば横紙破りが許されると思っているのだろうか。
さらに呆れることがあった。幹事長が答えている最中に私語を交わす輩がいるのだ。筆者の2列後ろに座っていた男性2人だった。ペチャクチャとうるさい。小学生の遠足を思わせるノリだった。度を過ぎているので筆者は「記者会見やってるんだから静かにしろっ!」と怒鳴りつけた。(民主党のホームページに動画がアップロードされているので視聴して頂きたい)。
私語で騒々しかった2人のうち1人はTBS『朝ズバ』の井上キャスターだった。後の質問で「TBSの井上です」と自ら名乗っていたから間違いなく井上キャスターその人だ。
政権はまっとうに仕事をせず、権力をチェックするはずのメディアは「十年一日の質問」「ルール破り」「私語」を恥じない。
記者クラブと菅政権が学級崩壊状態になるのは勝手だが、国民まで巻き添えにして欲しくないものだ。
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