【ハケンという蟻地獄】秋葉原通り魔事件:派遣労働者とメディアが懇談会

凶行の現場にしつらえられた献花台(秋葉原で筆者撮影)

凶行の現場にしつらえられた献花台(秋葉原で筆者撮影)

 秋葉原で起きた無差別殺傷事件の加藤智大容疑者が自動車工場の派遣労働者だったことから派遣社員を危険人物視したり、派遣会社をヒール役にする論調が一部の報道機関で散見される。

 派遣労働者のユニオンが18日、報道関係者に派遣の仕組みや置かれた実態を正しく理解してもらおうという懇談会を衆院第2会館で開いた。主催は製造業で働く非正規社員たちのユニオン「ガテン系連帯」。

 懇談会には多数の報道関係者や派遣労働者が出席した(衆院第2会館)

懇談会には多数の報道関係者や派遣労働者が出席した(衆院第2会館)

 秋葉原通り魔事件をめぐる報道で、「派遣」の実態を知らない表現を例に挙げると――
 「犯罪人予備集団の巣窟と化した人材派遣会社」「リーディングカンパニーが“殺人鬼”を雇い、住まいまで与えていたのだから驚きだ」「今回の事件で“素性の知れない殺人鬼”の派遣受け入れを余儀なくされた自動車部品会社」・・・

 今回の事件で「ガテン系連帯」には多くのメディアから問い合わせの電話があった。だが、「事件畑の記者さんは派遣の仕組みや置かれた現実を知らない。一から説明しなければならなかった」と小谷野毅事務局長は肩を落としながら話す。

 小谷野事務局長は派遣のしくみを鵜飼いに喩えた。「鵜匠が企業で、鵜が派遣会社、鮎が派遣労働者です」。

 現在のマスコミ報道は「鵜(派遣会社)」への批判に集中しがちだ。だが小谷野事務局長は「本当に儲けて鮎(派遣労働者)を苦しめているのは鵜匠(企業)だ」と力を込めた。

 質疑応答に入り、ある通信社の記者が「雇用主に派遣労働者の健康管理義務があるんじゃないんですか?」と間抜けな質問をした。

 雇用主にそういったモラルがあれば、派遣労働者が労災にあったりはしないし、第一派遣労働が社会問題になったりはしていない。「お前、それでもジャーナリストか!」。筆者はこの記者を怒鳴りつけたくなった。「(上述の)派遣労働者を誤解した表現が飛び出すのは、お前のような記者がいるからだ」と言って。

 でも冷静に考えれば、このような記者に「派遣」を理解してもらうのが、この懇談会なのだ。筆者は怒鳴りつけるのを自制した。

 昨年8月まで自動車工場で派遣社員として働いていた小谷誠さんが、この記者の愚問に答えた。

 「会社(工場)は我々のことを『物を作る部品の一部』としてしか見ていない。労働時間中は我々をどうして休ませないようにするかしか考えていない」。

 「派遣法の改正」は臨時国会の焦点となりそうだ。社民党の福島党首ら国会議員の姿も目についた。

「派遣法の改正」は臨時国会の焦点となりそうだ。社民党の福島党首ら国会議員の姿も目についた。

 小谷さんは具体例として次の出来事を挙げた―
 「工場内の気温は今の時期、30度C以上になる。職場の同僚(派遣労働者)が熱中症で倒れたが、現場責任者(会社側の管理職)は『そんなことは現認していない』と答えた。

 (脱水症状対策として)ポカリスウェットが粉末で渡される。ポカリスウェットのポットが置かれる工場もあるが、ラインが動いているので飲みに行けない。」

 「ガテン系連帯」の小谷野事務局長によれば、日野自動車の工場で15人が熱中症で倒れたことがあった。労働者が4日以上休業すると労基署の調査が入る。このため会社(工場)側は3日を超えて休ませない。人事・労務担当者が「休憩室で寝ていてもいいから出社して下さい」と言ってくるという。

 こんな酷い使われ方をしながら、「ハイ、あなたは1ヵ月後から来なくていいです」と突然通告されたらどうだろう。絶望に駆られ、気の短い人間だったら逆上してもおかしくない。それが“加藤容疑者”だったのかもしれない。

 「秋葉原で合掌している若者にも『派遣』を理解してもらう機会を設けたい」。小谷野事務局長はこう締めくくった。

 

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