東大の世論調査を疑え~企業丸抱えのイカサマ~ 

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ユニオンのメンバーは「国立大学の研究室が派遣会社から寄付金をもらい業界の意向に沿った世論調査を行った」と批判した。(24日、東大赤門前。写真:筆者撮影)

 【ハケンという蟻地獄】
 “東大”に日本人は弱い。「東大が言ってるんだから」と信じがちだ。新聞記者も「東大●●研究室によると」のクレジットで書けるので、あまり迷わずに記事にする。

 ところが眉に唾したくなるような世論調査結果が先月、東大のある研究室から発表された。「派遣社員の55%が製造業への派遣禁止に反対している」とする世論調査結果だ。

 派遣切りに怯えながら一日中働いても貯金もできない製造業への派遣は不安定雇用の典型だ。このため、製造業への派遣のうち需要がある時だけ雇用関係を結ぶ登録型派遣の禁止は「労働者派遣法・改正法案」の目玉のひとつとなった。

 派遣ユニオンなどは派遣労働者の総意としてこの改正案に賛成した。「派遣はなくなった方がいいんですよ」と目を潤ませて話した労働者の顔が忘れられない。にもかかわらず東大の世論調査では「半分以上が『製造業への派遣禁止』に反対している」のである。

 摩訶不思議な世論調査の種あかしをしよう。調査を行ったのは東大社会科学研究所「人材フォーラム」。人材派遣会社大手のスタッフ・サービスから奨学寄付金をもらっていたことを自らのホームページで公にしている。

 しかも調査は派遣会社の業界団体である日本生産技能労務協会の会員企業を通じて行った、というのだ。24日、本郷キャンパスで開かれた同フォーラムのワークショップで佐藤博樹教授がにべもなく明かした。

 派遣会社からお金をもらって、実際の調査は派遣会社が行う。アンケートの調査対象は派遣会社に登録している労働者たちだ。彼らは「派遣に反対」などと答えられる境遇にない。業界の意向に沿った調査結果が出るような仕掛けが2重3重に施されているのである。

 筆者はワークショップに潜り込んだ。参加者のほとんどは派遣業界の人々だ。「録音も撮影も禁止だからね」。佐藤教授は釘を刺すように言った。録音も撮影もできないワークショップなんて聞いたこともない。

 「派遣禁止に反対」へ誘導する設問

 アンケートの設問自体が派遣業者に都合の良いように作られている―

「もし今後、労働者派遣法が改正されて製造業務で派遣社員として働くことができなくなったとしたら、あなたが失業する可能性はどの程度あると思いますか?」

 派遣法改正案が禁じているのは、需要がある時だけ雇われる「登録型派遣」だけだ。「常用型派遣」はこれまで通りの存続を認めているのである。ところが、設問は「派遣法が改正されるとまったく仕事がなくなる」ということを前提にしているのである。クイズでいう“引っ掛け”だ。

 そもそも製造業への派遣解禁がなければ労働者は派遣切りに遭うこともなく、直接雇用なので収入も相当に多かったのである。

 「明らかな誘導ではないだろうか?」筆者は佐藤教授に質した。佐藤教授は「質問の意味が分からない」「製造業への派遣解禁が悪いということ?」などとして答えてはくれなかった。

 主催者から承諾を得て参加した新聞労連の田中伸武・副委員長は 「(アンケート調査の)生の数字を教えて下さい」と求めた。佐藤教授は「後でネット上に公開する」と答えたきりだった。

 この日、派遣労働者やユニオンのメンバーは赤門前でアピールを行った。マイクを握った30代の女性は、東大社研「人材フォーラム」に奨学寄付金を提供していたスタッフ・サービスに登録する派遣労働者だ。

 「私はスタッフ・サービスから●●社(神奈川県内の企業)に派遣され、そこで3年以上働いている。●●社から直接雇用の提案があったが、スタッフ・サービスから『あなたは金の卵だ』と言われて、直接雇用の話を潰された。スタッフ・サービスが私たちから絞り取ったカネで寄附を受けている、あなたたち(人材フォーラム)の世論調査は信用できません」。

 女性の震えた声が日本の最高学府に向かって響いた。


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