【ガザ点描】殺人兵器としての携帯電話

ガザで購入した携帯電話器

ガザで購入した携帯電話器

 日本人ジャーナリストは海外に出かけると現地で携帯電話器を調達する。日本製の携帯電話器だと隣のビルに電話をかけるのにも国際通話扱いとなり、目の玉が飛び出るような通信料が課金されるからだ。

 筆者はエルサレム(イスラエルの首都)で購入した携帯電話をそのままガザに持ち込んだ。パレスチナ自治区(ガザ、西岸)には国際電話のカントリーコード(国番号)がなく、イスラエルと同じ番号(+972)を使うことを余儀なくされている。したがって、せいぜいSIMカードさえ換えれば対応できるものだろうとタカをくくっていた。携帯電話の機種はA社でイスラエルでは主流だ。ガザはB社が主流。

 あるハマス党員が筆者の携帯電話に大変な興味を示した。目をランランと輝かせながら「これ、いくらで売ってくれる?」と聞くのだ。イスラエルのどこにでもある何の変哲もない携帯電話なのだが、彼の目は釘づけになっていた。今回の戦闘では対戦車ロケット砲を担ぎイスラエル軍陸上部隊と白兵戦を繰り広げた男だ。

 彼と一緒にいた男性が後で解説してくれた。「携帯電話は、爆薬を仕込んで敵を殺すために使うんだよ」。

ガザ市内の爆撃されていないエリア(筆者撮影)

ガザ市内の爆撃されていないエリア(筆者撮影)

 決してスパイ小説の世界ではない。1996年、イスラエルは「パレスチナの英雄」とまで言われたハマスの技術者、ヤフヤ・ハヤーシュの頭を携帯電話で吹き飛ばし暗殺している。暗殺を直接命じたのは諜報機関の長官だが、それにゴーサインを出したのはイスラエルのシモン・ペレス首相(現大統領)だ。前述の男性は「イスラエルに学んだのさ」と皮肉な笑みを浮かべた。

 『殺り方』はこうだ。敵陣営に送り込んだ人間(スパイ)に携帯電話をかける(この時点ではまだ爆発しない)→スパイは電話を取り次ぐ風を装い、暗殺したい相手に携帯電話を渡す→「ハロー」とその人物が電話口に出た瞬間、遠隔操作で爆発させる。

 ハマスがこれを実行する場合、次のようにしてイスラエルにスパイを送り込む。ガザには約5000人ものイスラエルのスパイがいると言われている。ほとんどは金で釣られたパレスチナ人だ。

 
 イスラエルのスパイであることが発覚した男には徹底した拷問が加えられ、携帯電話が渡される。携帯には爆薬が仕掛けられている→ニ重スパイとしてイスラエルに送り込まれる→相手はいつもスパイに使っている男だし、イスラエルでは主流の携帯機種だからガードは緩くなる→上記の『殺り方』でイスラエル要人暗殺となる。

 エルサレムから持ち込み、ガザでハマス党員に渡った筆者の携帯電話は今頃どうなっているのだろうか?気になってしょうがない。

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