「インド亜大陸の涙のしずく」と言われるスリランカ。北海道より一回り小さい島国に約2000万人が暮らす。日本は最大のODA供与国なのだが、スリランカで人道上の危機が起きていることはあまり報道されていない。
全人口の70%強を占める仏教徒のシンハラ人と少数民族(全人口の20%弱)でヒンズー教徒のタミル人との間で、1983年から続く内戦で6万人が死亡、約100万人が国内外の難民となった。ノルウェーの仲介で2002年に一時停戦したが、05年にタカ派のマヒンダ・ラージャパクサ大統領が就任すると内戦は再燃した。
ラージャパクサ政権は、反政府武装勢力「タミール・イーラム解放の虎(LTTE:通称タミル・タイガー)」が支配する北部、北東部(地図上の濃緑)への攻勢を強めた。20倍以上もの兵力を持ち、火力も圧倒的に勝る政府軍の攻撃は苛烈を極め、現在はタミル・タイガーを北東部ムラティブ県の海岸近くまで追い詰めている。
政府軍はタミル・タイガー(LTTE)が完全支配し自治政府機能を置いていたキリノッチ県さえも制圧したのである。
追い詰められたLTTEは民間人10万人を楯にとりジャングルに立てこもっている。命からがら脱出した人によれば「逃亡を図ろうとすればLTTEから射殺される」という。閉じ込めれた人々は、水・食料、医薬品が欠乏する状況に置かれている。体力が低下し、抵抗力もなくなるため病人が大量発生する。
政府軍はそのエリアを爆撃するのである。LTTE寄りのWebサイト「タミルネット」によれば「政府軍は無差別攻撃を続けており、病院に運ばれることなく死亡する民間人が多数出ている」模様だ(「タミルネット」は海外に編集部を置き発信し続けている)。国連によれば、この『2ヶ月間』で2800人以上が死亡、7000人以上が負傷した。
国際社会は停戦を呼びかけているが、スリランカ政府は「(停戦は)LTTEの態勢立て直しに手を貸すだけだ」として拒否する姿勢を変えていない。
ガタバヤ・ラージャパクサ国防相は、タカ派で鳴るラージャパクサ大統領の実弟だ。「勝利宣言」をするなどしてハシャグありさまで、少数民族への配慮はかけらも見られない。国際社会が本気で停戦仲介しなければ、タミル民族がせん滅される恐れさえある。
もし仮にスリランカのタミル人を皆殺しにしても、隣国インドには8000万人ものタミル人がいる。スリランカの全人口の4倍だ。スリランカで政治権力を握るシンハラ人にとって脅威がなくなる訳ではない。国に安定が訪れることはない。