「給料が出ない」~ガザからの便り

 ガザの友人からメールが続けざまに届いた。「ガザ情勢をリポートするので原稿料をくれないか」という内容だった。29歳の友人はガザ市内の小学校で教壇に立っているが、2月から給料が出ていない。ちょうどその頃、筆者はガザにいた。「給料を払えない」と学校から連絡があった時の暗い表情が、今でも忘れられない。

 友人は「ファタハのいやがらせだ」と唇を噛み顔を曇らせた。国際社会からの援助はパレスチナ自治政府に届く。自治政府を握っているのは、ファタハ。ガザを支配するハマスとは不倶戴天の間柄だ。両者は2007年、ガザ統治の主導権を争って武力衝突し、800人の死者を出したほどだ。

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燃料となる枯枝を集めて運ぶ親子(ガザ市郊外で。写真:筆者)

 事実、パレスチナ自治政府はガザに送金していないもようだ。ガザのキャッシュ・フローは不足しており、銀行では取りつけ騒ぎを思わせる人の列ができたりする。

 友人の父親(52歳)はイスラエルへの出稼ぎで一家を支えてきた。だが第2次インティファーダ(2000年)以来続く経済封鎖の一環で出稼ぎは禁止されたままだ。父親の収入は極端に減った。パレスチナの経済はイスラエルへの出稼ぎで支えられている部分が実に大きい。友人一家に限らず生活は苦しい。

 そこに“救いの手”を差し伸べるのがハマスだ。ハマスの資金を支えているのはイラン。現金はラファのトンネルを通って運ばれてくる。援助を受ければ当然、ハマスに取り込まれる。武器を手にイスラエルと戦ったり、自爆テロ戦士となったりする。

 ガザ住民の大半は貧困だ。したがってハマスの裾野は広い。果物屋のオヤジもパン屋の兄ちゃんも、イスラエルとの戦争となれば、配置につく。友人はハマスの兄弟分にあたる「イスラム聖戦」の戦士としてロケット砲を放っているようだ。

 ハマスに金が行き渡らないようにするためガザを経済封鎖しているのだろうが、結果としてはハマスを活気づかせているのだ。イスラエルはこの構図をとっくの昔に知っているはずである。「マッチポンプ説」は嫌いだが、信じざるを得ない状況がある。

 「リュウサク、一ヶ月に一度は電話をくれ。(お前からの)電話に出たら俺が生きてるって分かるから」。ガザを去る日に友人が言った言葉がいつまでも耳に残る。

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