古参後援会員も見放し自民大敗、与謝野財相「城代家老」失う

 12日投票が行われた都議会選挙で自民党は歴史的大敗を喫した。象徴は7期目を目指していた千代田区の内田茂氏(70才)の落選だ。東京都連幹事長にして元都議会議長。自民党都議団のボス的存在である。島部の川島忠一氏(当選)と共に「絶対落選しない」と言われていた。

 内田氏の対立候補である民主党の栗下善行氏(26才)に当選確実が出た時、民主党本部の開票センターはどよめきと歓声に包まれた。

 予兆らしきものはあった。内田氏の後援会を支える千代田区内のある商店主(60代)がこんなことを言っていた。筆者との会話が天下りなどによる官僚の無駄遣いに及んだ時のことだ。「ちょっと度を過ぎてるな。ワシはずーっと自民党だったけど、自民党は一度下野した方がいいな」。

 支持者が「今度は自民党には入れない」と言うのは、幾度か聞いたことがある。だが古参の後援会員が「自民党は下野した方がいい」と話すのには、ギョッとした。ここまで来たか、と思わざるを得なかった。

 1年に12兆円にも上る官僚の無駄遣い(衆院調べ)は確かに度を過ぎているが、商店主は、それだけで「自民党は下野した方がいい」と言ってるのではないようだった。

 「麻生さんは首相になった時に解散しとかなければいけなかったんだよ」とも話した。経済政策がもろに家業に響く商店主は、麻生政権の景気対策がまやかしであることを肌身で感じているようだった。「モノが売れないでしょ?」と筆者が聞くと「恐ろしいほど売れないよ」と顔を曇らせた。

 「国営マンガ喫茶(国立メディア芸術総合センター)はどう思いますか?」との問いには「お話しにならんよ」と吐き捨てた。

 国民生活の困窮を尻目に迷走する麻生氏だが、自民党は「選挙の顔」と称して総裁に選んだのである。年金問題、福祉・医療の切り捨て、世襲誠政治……。自民党政治に対する有権者の不満は積もりに積もっているにもかかわらず、一向に改善されない。商店主は数十年に渡って支持してきた自民党のぶざまな姿に愛想も尽きたのだろう。

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当選者にバラの花を付ける菅直人代表代行ら(民主党本部で。写真=筆者撮影)

 内田氏落選の衝撃には第2弾がある。内田氏は与謝野馨財務相の選挙(東京1区)を支えてきた「城代家老」だ。与謝野氏は大物政治家でありながら「選挙ベタ」なことでも知られる。動きが悪いことで小沢前代表に怒鳴られたこともある海江田万里氏(民主元)に2度も苦杯を舐めているほどだ。

 現職都議でなくなった内田氏は、選挙参謀としての力量をこれまで通りには発揮できまい。業界団体や地元への締め付けが効かなくなるからだ。内田氏が落選したことで与謝野氏は完全に浮き足だっていることだろう。

 自民党の重鎮で重要閣僚の与謝野氏は「都議選で負ければ麻生首相は辞任」の流れを作った人物だ。「城代家老」を失い自らの選挙も危うくなった与謝野氏が、率先して麻生首相に引導を渡すこともありうる。

 本来の自民支持層が自民党の行政や政策にノーを突きつけた時、自民党は大敗する。前回参院選(07年)での年金問題、衆院山口2区補選(08年)での後期高齢者医療制度が記憶に新しい。古くは牛肉・オレンジの輸入自由化で農家を激怒させた直後の参院選(89年)がある。

 今回の都議選は、自民支持層だけではなく古参の後援会員までが自民党にノーと言ったのである。間近に迫った総選挙で自民を待つのは大敗を通り越した未知の領域なのだろうか。

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