「石原支配」に反発、自民支持層も取り込む社民党の保坂候補

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民主党のノボリを背に有権者に訴える保坂候補(JR西荻窪駅前で。写真=筆者撮影)

 「民主党推薦の保坂展人です」の声が杉並区の商店街や住宅地に響く。社民党公認の保坂展人候補は、民主党のノボリを立て民主党の選挙カーに乗る。東京8区は民主党の小沢代表代行と社民党の福島みずほ党首のトップ会談で両党の選挙協力がスムーズに行った典型的な選挙区だ。

 6区で社民党は候補を立てない代わり8区では民主党が候補を立てない、とするバーターだった。保坂氏は根拠地の世田谷区から杉並区に“引越した”のである。とは言っても落下傘候補にありがちな「よそ者」のイメージは薄い。

 「国会の質問王」と異名を取り「財政の無駄遣い」などで政府を追及してきた保坂氏は、住民監査請求のメッカである杉並区にすんなりと溶け込んでいるようだ。「護憲」「環境」「行政オンブズマン」などの住民運動グループが「勝手連」を作り保坂陣営の選挙運動を支える。

 保坂氏は石原伸晃候補(自民公認、公明推薦)と事実上の一騎打ちだ。都議選で保坂氏を推薦する民主党と生活者ネットの合計は12万票余り。石原氏を支える自公は7万6千票。

 一見すると保坂氏楽勝だが、選挙はそう単純ではない。選挙現場の裏を探らず表に出ている数字ばかりを鵜呑みにすると情勢を見誤る。民主党の都議が得た票がそのまま保坂氏に乗るとは保証されないのである。全国的によくあるケースはこうだ――
 ○○県のA県議は民主党議員だ。だが自分の選挙では○○県選出の自民党国会議員と支持者が重なる。自治労対策や県の事業などで利権を共にするからだ。業界では「票が重なる」という。民主党県議だけど国政選挙ともなれば「隠れ自民」として自民党候補のために票を出す。

 組織票頼みの選挙に安閑とするわけにはいかない保坂陣営は、無党派層への訴えに懸命だ。自民支持層の取り込みも図っている。

 杉並区制に対して長年続く「石原支配」に反発を覚える有権者は少なくない。杉並区役所には都庁から100人近い職員が出向しニラミを利かせる。その産物が「作る会教科書」や「夜スペ」だ。環境問題に対する住民の要望は「なしのつぶて」のごとく潰されてきた。

 政権交代が現実性を帯びたこともあり、「石原支配」への反発はここにきて一気に噴出した感さえある。「この地域は石原(父子)さんが長い間牛耳ってきたので今度は変えてほしい」。こう話すのは西荻窪で飲食店を営む女性(60代)だ。

 ある年金生活者(70代女性)は「ノブテルは地元に何もしてくれない」と吐き捨てる。石原候補は元々杉並区が地盤だったわけではないので、地元に馴染みが薄い。「杉並のために尽くしていない」という声は至る所で聞く。

 保坂陣営が毎日複数回行う地元商店街での練り歩きでも反応は良い。商店経営者は元来、自民支持である。共産党、社会党(現・社民党)を支持するなどということは常識ではあり得なかった。ところが今回は違う。商店主らは口々に「今度は政権を変えなければね」と言いながら保坂氏の手を握る。

 政府が「GDPの前年比がプラスに転じた」などと大本営発表を並べ立てても、商店経営者は景気が一向に良くならないのを身を持って知っているのだ。

 自民党の失政に「石原支配」への反発が重なり、東京8区は他の選挙区以上に民主党への猛烈な追い風が吹いている。民主支持を固め無党派層や自民支持層をしっかり取り込むことができるかが、保坂候補の浮沈の鍵となる。投票率が上がらなければ自民得意の組織選挙を展開する石原候補が有利となる。

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