30日、投開票の衆院選挙情勢について新聞、週刊誌はこぞって「強い追い風を受けた民主党が300議席前後を獲得する」との予想記事を出している。一方で「民主が圧勝するかのような報道は、揺り戻しを起こし自民を利することにつながる」との見方もある。
政権交代が目前に迫る民主党の鳩山由紀夫代表としても気がかりなところだ。23日、東京・谷中の商店街で行った街頭演説で「300議席を取るかのような報道があるが、選挙は決してそんな甘いものではない」と引き締めた。
揺り戻しは果たしてあるのか、2つのケースを想定してみる。
ケース1)民主党に入れようと決めていた有権者が「民主に勝たせ過ぎても良くないので、やはり自民に入れよう」と考え直す――
これは先ずない。年金はズタズタ。政府の発表とは裏腹に景気は一向に上向かない。額に汗して働いても年収は200万円に届かない。これでは子供を作ろうにも結婚さえできない。農業は休耕地が広がるばかり。国民の生活はあらゆる所でボロボロになっている。にもかかわらず能力のない世襲政治家は官僚のいいなりで、国民は希望を見出せない。
街頭で聞く有権者の声をまとめるとこうなる。よほどの富裕層ならともかく、有権者の怒りはちょっとやそっとで覆るものではない。
ある商店主(40代・男性=台東区=)の言葉がそれを表している。「民主党のマニフェストは確かに財源が不安になるが、今の社会を改善しようという姿勢は見られる。ところが自民党の場合はその姿勢さえ感じられない」。
ケース2)どこに投票するかまだ決めていない有権者が3割いる(筆者のインタビューでは2割)。彼らが「民主党に勝たせ過ぎてはいけない。だったら自民党に入れてバランスをとろう」と考えるようになる――
これはあり得る。前回(2005年)の衆院選で、自公は327議席を獲得したのに対し民主党は半数以下の113議席止まりだった。ところが得票数で見ると「自・公=6,838万」「民主=4,584万」。その比はわずか「3:2」である。
勝つか負けるかの小選挙区制なので、僅差でも勝てば1勝となる。わずかの差が大差となり、オセロゲームのごとく自民で埋め尽くされた。
今回の選挙情勢は「民主が300議席前後獲得する」と予想されているが、まだ投票先を決めていない3割(筆者の街頭インタビューでは2割)の有権者の動向しだいでは、予想が覆ることもある。
【切り札は新型インフルエンザか】
「勝ち馬に乗る」という法則がある。「バンドワゴン効果」とも言う。選挙後、利益配分に預かることを考え、当選が確実視されている候補者につくことである。自分の推す候補が当選するかしないかは、地方議員、土建業者にとっては生き死にに関わる。市町村も大きな影響を受ける。
当選が濃厚の候補の下には、地方議員や業者が馳せ参じる。接戦となっている場合は、両陣営に協力したりする。選挙後の「論功行賞」があるからだ。「あった」からだと言う方が正しいかもしれない。
自民党の野中広務幹事長(当時)は市町村長や助役に電話をかけて「オタクの所からは○○票出してくれよ」と具体的に指示していた。筆者が助役らから直接聞いた話だ。もし言われた通りに票を出さなければ、翌年度の予算編成で痛い目に遭うということだった。ある助役が「こっちも血眼だ」と顔をしかめていたのを思い出す。
民主党でこうした「論功行賞」により選挙区を締め付けることができるのは小沢代表代行くらいだろう。だが、軍師と呼べる選挙参謀があまたいた自民党と違い、小沢氏は一人であれもこれも目配りしなければならない。「論功行賞」など考える余裕はないのではないだろうか。
したがって民主党の優勢がさらに優勢を呼ぶ「バンドワゴン現象」は、言われるほど大きくない、と筆者は見ている。そうなると『もし仮に』揺り戻しが起きた場合、「300議席超」は夢幻となる。
最大の揺り戻しは、今月末にも大爆発が予想されている新型インフルエンザではないだろうか。30日の投票日に合わせて、「人が多く集まるところに行かないでください」と厚労省が警告を発することも可能だからだ。投票率が下がれば、自公有利となる。
このように常識を欠いた事態が起きる可能性は低い。何やかやあったとしても自公で過半数を維持するような大きな揺り戻しは起きそうもない。
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