小池百合子氏、内外堀埋められ都知事選に突破口

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小林興起氏(中央)の復活で「小池城」の内堀は埋められた(東京・池袋で。写真=筆者撮影)

 「小池百合子です。只今、助手席から本人がご挨拶しております・・・・・・」。ウグイス嬢は政党名と政策を決して口にしない。政党名と目玉政策を連呼する民主党と対照的だ。

 自民党に対する強烈な向かい風のなか、小池氏の選挙戦は元来の自民支持層を固める「ミニ集会」が中心だ。

 豊島区のある施設で開かれたミニ集会で小池氏はこう話した。「私をあの時(昨年9月の自民党総裁選)、総理にしておけばこんなことにならなかった・・・(中略)私が回っている所では(有権者の)感触がいい。なのにマスコミは(情勢が)良くないと書く」。

 小池氏が自民党公認候補ということもあり、集会には区長や区議会議員が顔を並べる。意気軒昂として強弁する小池氏とはウラハラに地元政治家の顔色は冴えない。型どおりの挨拶を済ませて、小池氏が来る前にそそくさと帰る政治家もいる。マイクを握っても全く気勢は上がらない。まるで追悼集会のようだ。

 地元政治家の気が重くなるのには事情がある。前回(2005年)の衆院選で刺客の小池百合子氏に追い落とされた小林興起氏(民主・東京比例)の復帰が確実だからだ。

 小林興起氏が自民党衆院議員だった頃に、同氏の秘書から議員に、議員から首長になった政治家は内心穏やかではない。表向きは小池百合子氏支援のポーズを取らねばならない。だが本腰を入れることはできない。

 「これから(小池氏に)地獄の苦しみを味わせてやる」。小林興起氏は嵐のような郵政選挙で自らを落選させた小池氏への復讐心を露わにする。

 政治家ばかりではない。小林氏は元通産官僚の経歴を活かして地元商店街のために利便を図った。都や霞ヶ関から融資を受ける「商店街活性化資金」などで、だ。

 ただ見返りも要求した。商店主らが小林興起氏の事務所に陳情に行くと「聞いてやるから、俺をあと3回(選挙に)通せよ」と言われた、という。

 いきなり落下傘で関西から舞い降りて来た小池百合子氏は「豊島区商店街連合会」の顧問として祭りあげられている。ある商店経営者は「ただのお飾り」と苦笑する。 
 商店街は大集票マシーンでもある。地元区議、都議、区長には一大プレッシャーグループだ。商店街に対する小林氏と小池氏の影響力には雲泥の差がある。

 小選挙区では民主党の江端貴子候補にリードを許し、比例区では自らが追い落とした小林興起氏がリベンジ復活する。その小林氏は地元議員や商店街に対して「論功行賞」による締め付けをするだろう。

 「日本初の女性宰相候補」とまでもて囃された小池百合子氏は、外堀も内堀も埋められた感がある。内堀とは地元選挙区であり、外堀とは日本政界、彼女にとっては自らが所属する自民党のことである。

 選挙後、解党的出直しを余儀なくされる自民党は、これまでのように人気取りに血道をあげる政党ではなくなるだろう。小池氏を担いでいた小泉元総理は引退した。武部勤、中川秀直元幹事長も当選が危ぶまれているし、復活当選してもかつてのような力は望めない。小池氏が脚光を浴びる余地はないのだ。

 地元でも自民党でも存在感を失う小池氏にとって、東京都知事への転身は残された数少ない突破口のひとつである。

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