黒船TPPと平成の仙獄 ~粛清に中間派も反発~

「TPPは『先ずは調査』が党決定だった。しかし党のビラにはTPPを実施するように書かれている。これでは地方は選挙を戦えない」と執行部を批判する京野公子議員。(24日、憲政記念館。写真:筆者撮影)。

「TPPは『先ずは調査』が党決定だった。しかし党のビラにはTPPを実施するように書かれている。これでは地方は選挙を戦えない」と執行部を批判する京野公子議員。(24日、憲政記念館。写真:筆者撮影)。

 通常国会に向けて党内の結束を図るはずだった民主党の両院議員総会は大荒れとなった。菅執行部のガバナビリティの欠如を象徴していた。

 両院総会は午後からの本会議に先立ち午前10時半から憲政記念館で開かれた。挨拶に立った菅直人代表(首相)は、今国会にかける意気込みを語った。2011年度予算の成立に政権の命運がかかっているため、予算中心のスピーチとなった―ー

 「極めて厳しい財政状況のなか国民生活に必要な予算であることを自信を持って訴えていこう」。「大きな政治課題がふたつある」として「社会保障維持のための財政議論」と「貿易の自由化」を挙げた。消費税増税とTPPで大きく前のめりになる菅政権らしい政策である。

 消費税増税で財務省の、TPPで米国の支持を取り付け、政権維持を図るつもりなのだ。国民生活などこれっぽっちも頭にない。異様に高いテンションで、内容はともかく声だけはよく通った。

 続く岡田克也幹事長は「役員人事」、「国会」、「愛知県知事選、名古屋市長選」などについて述べた。

 質疑に移り12人の議員が質問に立ったが、ほとんどの議員が執行部を突き上げた。階猛(しな たけし)議員は、執行部が小沢一郎元代表に「除名」「離党」を迫ろうとしていることに疑義を唱えた。「検察審査会のよりどころだった石川(知裕議員)さんの供述は検察の誘導だった。証拠能力が乏しくなっている。私は弁護士だから分るのだが、事件は無罪となるだろう。判決が出るまで小沢さんの処分を口にすべきではない」。

 小沢グループとは距離を置く中間派の議員からも執行部批判が噴出した。北神圭朗議員は「派閥に人事が偏っている。参院選の結果責任も問われていない。これから戦わなくてはならない相手は自民党。仲間内で戦ってどうするんですか。どういう発想で人事を行ったのか説明して下さい」。

 人事をめぐっては小沢元代表寄りの議員を予算委員や政治倫理審査会から外す粛清人事が先週、断行された。北神議員はこのことを問うたのである。

 岡田幹事長は「役員人事は総理が決めたこと。去年の代表選挙で皆さんは菅さんを代表に選んだ。菅代表の下にまとまってゆくことが挙党一致ではないか」と答えた。

 党分裂と国民からの信頼を失うことを憂う森ゆうこ議員と川内博史議員は先週末(21日)、「挙党体制を築くための党運営について」と題する建白書を岡田幹事長に直接手渡した。

 建白書は「国民に断りのないマニフェストの変更」や中間派の北神議員も追及した「偏った人事」などについて説明を求めている。

 岡田幹事長は「(建白書には)議員有志一同とあるだけで署名がない」として建白書に対して回答しなかった。

 森ゆうこ議員は「名前を書けば弾圧される」と声をあげた。

 事実として小沢元代表寄りの川内博史氏、岡島一正氏ら議員19人が政治倫理審査会委員と予算委員から外されたのである。本人の辞意がないのにもかかわらず執行部が強行した人事だった。小沢氏を政倫審や証人喚問に持って行きやすくするためである。小沢グループと距離を置く議員でさえも「偏った人事」と憤る。「安政の大獄」ならぬ「平成の仙獄」である。

 TPPは郵政民営化を上回る米国による日本食いだ。開国派の大老がTPPに反対する小沢グループを無力化したのである。「セーフティーネットを設けずにTPPをやっちゃったら、(日本の農業は)皆やられちゃうよ」。小沢氏はフリー記者らとの懇談会(17日)でこう指摘した。

 合理的な指導力を欠き大権のみを振りかざす菅執行部。4月に迫った統一地方選挙での惨敗は必至の情勢だ。民の声を聞かず見通しもなく開国し増税すれば、とてつもないツケが回ってくるだろう。


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