「日本でもやっと誕生した“再生可能エネルギー電力買い取り補償制度”(FIT)だが、市民の主体的な参加が、普及には不可欠だ」。『自然エネルギー学校(気候ネットワーク主催)』講師の和田武さんは力を込めて言った。
「この制度が出来たからもう安心、徐々に自然エネルギーはドイツ並みになっていくだろう」と呑気に構えていた筆者は、目を見開いて講義に食らいついた。
25日、京都。都に秋を告げる大文字の送り火から10日も経つのに真夏の暑さだ。だが講座会場の「京エコロジーセンター」に入ると、心地よい涼しさを感じた。
気化熱で冷した水を循環させ壁やひさしを工夫したことにより、館内の室温は26℃と快適だ。外気は猛暑日寸前の34℃もあった。「躯体(くたい)放射冷暖房(※1)」と「ソルエアパネル(※2)」が、自然のクーラーの役割を果たしているのだ。もちろん館内の電力は全てソーラーパネルで賄っている。
「こんな素晴らしい技術があるんですね、公共施設は全てこのシステムを導入すればいいのに」
「いや、これはもう既に古い技術ですよ。住宅などでも既に導入が進んでいます」
講座の事務方はさらっと答えたが、筆者には驚きの連続だった。京都COP3(1997年)を記念して建てられた京エコロジーセンターは、10年以上も前の技術を使っているのだが、筆者には最新エコ技術にみえた。
電力買い取り制度が始まると日本ではどんな事が起きるか。環境先進国デンマークからヒントを得られそうだ。同国は2050年には全電力を再生可能エネルギーへ切り替えることになっている。
デンマークでは風車の約80%を住民が所有する。電力の約26%が風力発電の同国では、発電所建設の際に設備容量の20%以上を住民が所有するものと義務づけ、風力発電を促進してきた。しかし始まりは、住民による要求からだった。
第一次石油危機(1973年)以降、農民が中心となって風力発電機をメーカーに作らせ設置した。そして1980年代に入ると、設置者に利益が出る電力買い取り制度が出来たのだ。
再生エネが進んだ理由の一つとして、市民・地域が、電力会社と相談し、どこにどんな発電機を置くか決めることにより、発電所建設の反対運動がほとんどないことがあげられる。
「“住民が主体となって進める”これが最も重要だ」と和田先生は念を押す。再生可能エネルギーは、個人または地域で共同発電所を持つことにより、利益が地域に還元される。日本の電力買い取り制度も、利用者に損にならない買い取り価格になっている。しかし、それを活かすためには、市民が電気を作る側に立たないといけないという。
既に再生エネに名乗りを上げている大手企業等に任せてしまうと、企業が地域にやって来て、土地を買い取り発電所を作る。それでは地域活性につながらない。デンマークやドイツの様に、「発電所により生活が豊かになる」、「地域の結びつきが出来た」など、利益が還元される必要がある。
発電所を自分で作ると言っても…。夢物語に聞こえるかもしれないが、実は日本では買い取り制度ができる前から住民や自治体によってつくられた「市民発電所」が全国各地に点在していたのだ。
従来の貧困なエネルギー政策の下でも、市民がお金を出し合って、環境を考えて行動して来た。それが、買い取り制度が始まった事により、実際に利益が還元される発電所となろうとしている。(拙ジャーナルでは市民発電所のようすを順次報道してゆく)
市民発電所の敷居がぐっと低くなった今、エネルギーを自分たちの手に入れる『エネルギー民主主義』の実現は、すぐ目の前まで来ているようだ。
自然エネルギー学校に参加した地元京都の女性(30代)は、再生エネへの期待をこう語った。「地域の繋がりのなさを感じている。エネルギーを共同で作る事により地域が繋がる方法を見つけたい」。
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(※1)躯体放射冷暖房…天井や床のコンクリートの中に入れた管に、冷水や温水を流し、部屋の冷暖房を行う
(※2)ソルエアパネル…屋根などの上にエチレングリコールを入れたパネルを置き、夏には夜間の放射冷却や自然風により冷やし、冬は太陽熱により温め、冷暖房水の温冷に利用する
【諏訪京の再生可能エネルギー入門】次回は、身近なソーラー発電。