【諏訪都リポート】スペイン15M 元祖・怒れる若者のオキュパイ ~その2

パティオの中でダニエルさん(左)に話を聞いた。スペイン国内では、飲食店内での喫煙は禁止されているが、パティオではタバコを吸っている人もいる。=写真:筆者撮影=

パティオの中でダニエルさん(左)に話を聞いた。スペイン国内では、飲食店内での喫煙は禁止されているが、パティオではタバコを吸っている人もいる。=写真:筆者撮影=

 スペイン国内でローンが払えずに立ち退きとなる住宅は1日につき526件(2012年四半期平均 4~6月)を数える。毎日526世帯が家を失っていることになる。

 不況により仕事を失い、過去の不動産バブル時に購入した住宅ローンが払えなくなる。こうした事情から、「オクパ運動」は中間層にまで広がり、今までになく活発化している。

 「オクパ(オキュパイ)」は一般的には「スクワット」として知られており、不法占拠という意味だ。ドイツで始まり60年代後半から70年代にかけて盛んになった。居住や多目的スペースを確保するため若者やアーティストなどが、長期間使われていない廃墟などを占拠してきた。スペインでは80年代から盛んになった。

 不法占拠と聞くと、なんだか薄暗い活動家のアジトの様なイメージがするが、近隣住民にも受け入れられ、メディアの見方も好意的だ。

 最重要オクパと言われているマドリッド市内の「パティオ・マラビージャス(El Patio Maravillas)」を訪ねた。住宅を失った人々や活動家が大きな建物全体をオクパしていた。木製の重厚な扉を開けると、至るところにイベントなどの張り紙が貼られていた。1階部分はカフェスペースで、居心地の良い空間が出来ている。2階以上では様々な講座が行われている。トイレは、カーテン式でカラフルにペイントされ手作り感に溢れていた。

新パティオの占拠直後。深夜の作業が続いた。=写真:オクパ・グループのウェブサイトFotoforkより=

新パティオの占拠直後。深夜の作業が続いた。=写真:オクパ・グループのウェブサイトFotoforkより=

 「最初は7年間放置されていた廃校を、2007年から2010年までオクパしていた。そこを、追い出されてしまったので、その日に、前から目をつけていた、ここを占拠したんだ。この建物は2番目だ」。建物を占拠する時から関わっているダニエルさんは、芸術的に改装されたインテリアを見て誇らしげに言う。

 「この建物は建設会社が所有しているが、現在倒産状態にある。居住用のオクパではなくて、市民に開放された文化施設と思ってもらえればいいよ」とダニエルさん。

 パティオでは無料のインターネットはもちろん、併設しているカフェでチャリティーパーティーを行ったり、様々なワークショップ、自転車作り、ビール作り、ビデオ・ドキュメンタリー制作、また、英語クラス、サルサダンスクラスなど毎日6つ以上の講座をほとんど利益無しで開催している。

 ダニエルさんは話を続ける――

 「警察はたまに、2〜3人で来ることがある。でも、そんな少人数では何もできない。ここは市民に受け入れられているし、長期放置されていた廃墟を市民の為に活性化させた僕たちを追い出すことはそんなに簡単なことじゃない」。

 しかし、なぜこうも公然とオクパが出来てしまうのか。日本であれば、すぐに警察が来て一掃されてしまうだろう。

 スペインでは、土地所有者は土地や建物を使用しない場合、公共の為に有効活用する義務がある。また、自身の所有物が不法占拠された場合は、まず裁判所に赴いて、家賃を受け取っていないなどの不当性を証明しなければいけない。

 裁判所が不法占拠であると認めて初めて、警察が動く事ができるので、裁判費用や時間などに手間がかかる。時間のラグによって、オクパが成立するのである。

 先に追い出されてしまった、パティオ1号は、所有者による告発というより、市民運動の拠点となるオクパを快く思わない警察が、政治的な判断で動いたという見方が強いようだ。

 現在、マドリッドではパティオのような非居住用で約20戸、居住用では100戸以上のオクパが存在しており、今なお増加している。 ~つづく~

 ※
諏訪記者はスペインの親戚を訪問した折りに「元祖オキュパイ」を取材しました。

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