「さよなら晋三」 集団的自衛権にNO突きつけ

新宿で反戦を訴え続ける大木晴子さんは七色のパラソルを振りながら沿道の人々にアピールした。=5日、靖国通り 写真:田中=

新宿で反戦を訴え続ける大木晴子さんは七色のパラソルを振りながら沿道の人々にアピールした。=5日、靖国通り 写真:田中=

 安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定して初めての週末、市民たちが新宿で抗議の声を上げた。(「ファシズム許すな!安倍政権打倒デモ@新宿」 主催:怒りのドラムデモ)

 自分が徴兵されるかもしれない ― 危機感を募らせる若者の姿が目立った。主催者は「これまでのデモより参加者が多い」と話す。

 19歳の男子大学生は「安倍首相には民意を聞けと言いたい。集団的自衛権と個別的自衛権をごちゃごちゃにしている。レトリックだ。安倍さん自身わかっていないのではないか」と政府の姿勢に疑問を投げかける。

 足立区から来た20歳の男子大学生は「大学にも意見を持っていない人が多い。意見を持たないことには話し合いにならない。興味を持ってもらうためにデモに参加している」と話す。デモで声をからした後で大学に行くと、友人に興味を持ってもらえることもある、という。

 公園には新宿西口の地下道で反戦を訴えつづける大木晴子(せいこ)さんの姿もあった。大木さんは1969年新宿西口フォークゲリラの生き証人でもある。ベトナム戦争に反対する若者の熱気が西口広場を埋め尽くした現場を知っている。

 大木さんは七色のパラソルを持って参加した。「今日はどうしても来なければと思って来た。安倍政権の動きが早すぎる。この早さが気持ち悪い。そういう世の中だから神経を研ぎ澄まして生きなければならない」と話す。

 新宿の焼身自殺について感想を聞いた。「あの方の背筋がとても美しく感じた。自分の命を差し出せばこの状況が良くなるならいつでも死ねる。でも生きたくても生きられないこともある。あの方にも死んで欲しくない。自分の中で祈っている。忘れられない人になる」。男性のその後が全く報道されないことも、おかしいと大木さんは話す。

集団的自衛権に反対する男性が焼身自殺を図った現場付近でデモ隊が立ち止まった(写真右側)。黒いススが生々しく残る。=5日、新宿駅南口 写真:中山=

集団的自衛権に反対する男性が焼身自殺を図った現場付近でデモ隊が立ち止まった(写真右側)。黒いススが生々しく残る。=5日、新宿駅南口 写真:中山=

 やがて、大きな「さよなら晋三」とかかれた横断幕がひるがえると、ドラムの音とともにデモ隊は出発した。

 外国人の姿もあった。28歳と29歳のオーストラリア国籍の男性は英語教師。友人に誘われての参加だ。3年前に来日した。「日本が長年守ってきた平和主義を捨ててしまうのに反対」だという。

 日本が集団的自衛権を行使容認することにオーストラリア政府は歓迎しているが?と聞くと「でも国民は反対」だという。いずこも国民の反対をよそに政府は戦争準備に前のめりだ。

 中学校の制服を着た、まだ幼さを残す少年もいた。少年は都内に住む12歳で、母親と叔母と連れ立っての参加だ。ドラムとコールがすさまじいため、筆談でインタビューした。

 安倍首相のことをどう思うか?「すぐにやめるべき」。どんな気持ちでデモに参加したか?「憲法をぜったい守りたい」。少年の目は真剣そのものだった。

 靖国通りでデモが通り過ぎるのを熱心に見ていた外国人男性と日本人女性のカップルに、大木晴子さんが手招きした。するとカップルは列に加わり、声を上げはじめた。

 「昔はこうやって(飛び入りを)入れたものですよ」。大木さんは虹色のパラソルを回しながら話した。70年代にはデモをする人と沿道との距離が短かったのだろうか。

 「飛び入りOK」と書かれたプラカードを持っている人もいた。出発時よりかなり人が増えたようだ。

 新宿駅南口の空中通路に差し掛かると、デモ隊は足を止めた。先週、集団的自衛権に反対したとして男性が焼身自殺を図った場所だ。「安倍は辞めろ」「憲法壊すな」。デモ隊のコールに、沿道にいた数人が手を叩いて唱和した。

 空中通路の外側にはまだ黒いススがこびりついている。はるか後方まで大蛇のように隊列は続く。デモのコールとドラムの音が、自分を犠牲にしても世論を喚起することが唯一の希望だった男性の思いと一体化したかのように響いた。
 
  (文・中山栄子)

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