新聞・テレビの前で「挙党一致で…」を繰り返し党内世論を味方につけようとした菅直人首相の努力は空振りに終わった。
「挙党一致」という言葉をめぐって菅首相と鳩山・小沢陣営が考える意味が違ったからだ。首相は「適材適所で(小沢氏をのぞく)全員が参加できる政治」とし、鳩山・小沢陣営は「小沢前幹事長の人事面での処遇を」と求めていたのである。
30日夜、鳩山由紀夫・前首相が「トロイカ体制」なる懐かしい言葉を持ち出し、小沢氏の有力ポストへの起用を『暗』に求めた。首相も「基本的な考え方は全く依存がない」と応じた。「対決回避へ」と新聞・テレビは囃し立てた。
だが冷静に考えれば、菅氏側が小沢氏を受け入れるはずはない。なぜなら菅政権とは「反小沢」で結束している寄り合い所帯だからだ。小沢氏を党や政府の要職につければ、菅氏は求心力を失う。菅氏にはできっこない相談だった。
にもかかわらず大手メディアは「小沢陣営内に出馬見送り論」(朝日新聞31日付け)などとして、「小沢不出馬」の世論作りにいそしんだ。すでに「国民の大多数は小沢氏の代表選出馬に反対」などとする反小沢キャンペーンで下地をしっかりと作ったうえに、である。
明けて31日、菅氏は元来のスタンスである「小沢外し」を態度で示した。菅氏は正午過ぎから議員会館の会議室で持たれた鳩山、小沢、輿石氏との会談に出席するはずだったが、欠席したのである。ドタキャンだった。出席すれば小沢氏をめぐる人事の話に巻き込まれるため避けたのだ。
これでは仲介の労をとった鳩山前首相の面目は丸つぶれだ。午後1時過ぎ、3氏(鳩山、小沢、輿石)は憮然とした表情で会議室を後にした。
午後2時半前、衆院議員会館の菅事務所に前原誠司国土交通相、野田佳彦財務省、岡田克也外相ら「反小沢」の閣僚らが続々と終結した。菅氏本人も姿を現した。菅派の作戦会議は1時間余りに渡って続いた。
菅事務所から出てくる閣僚や渡辺恒三・前顧問らが異口同音に語った。菅氏は彼らを前にこう話した、という。「人事やポストで妥協することは一切ない、断固として戦う」。交渉が決裂したことを菅氏が正式に表明した瞬間だった。
菅氏のこうした発言は記者団から小沢陣営に当然抜ける。1時間余り後に党本部で菅、小沢両氏の直接会談が持たれたが、「お互い正々堂々と戦いましょう」というセレモニーに過ぎなかった。直接会談が終わると、すぐに小沢氏は立候補表明の記者会見を開いた。
小沢氏は国会議員票で圧倒的に優位に立つと見られている。大手メディアは「世論の7割が菅続投支持」と喧伝する。(ネット上の世論は『反菅』『小沢待望』が大勢なのだが。)
万が一、大手メディアの世論調査が正しいとしても代表選で投票するのは一般の国民ではない。300ポイントを持つ党員・サポーターは地元国会議員の影響を色濃く受ける。
菅氏は午後6時過ぎから憲政記念館で出馬記者会見を開いた。「いずれの候補が総理にふさわしいのか、国民の皆さんは党員やサポーター、あるいは地方議員や国会議員に声を届けて下さい」。大手メディアが作りあげた『反小沢世論』に頼るしかない首相の顔は疲れきっていた。
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