65回目となる「終戦の日」の靖国神社――。日の丸を掲げて行進する右翼団体、特攻服に身を固め記念撮影に興じる軍国マニアの青年……目に飛び込んでくるのは毎年おなじみの光景だ。
「みんなで靖国神社に参拝する国会議員」の先生たちも粛々と英霊を弔った。例年と違うのは、菅政権が中国や韓国に気遣うあまり一人の閣僚も参拝していないことだ。2006年、小泉総理が参拝して周辺諸国との関係を冷え込ませたことを教訓にしているのだろうか。
照りつける陽射しと靖国名物の蝉時雨の中、それぞれの終戦を年配の参拝者に聞いた。
青森県から妻と共に訪れた男性(70歳)は終戦を満州で迎えた。ソ連軍が攻め込んで来たため引き揚げ始めた時だった。混乱のさなか母親(当時30歳)はチフスで命を落とした。弟がいたがやむなく現地の中国人に預けて帰国した。1984年、厚生省の事業で再会するまで弟とはほぼ40年間離れ離れだった。
「引き揚げのドサクサで『敗戦』など知りもしなかった」と耳を手で塞ぎながら話す。戦争で人生を引き裂かれた男性は、閣僚が一人も参拝しないことに憤る。妻は足が悪く血圧も高い。「それでも今年は何が何でも参拝しなくてはならないと思い、きのうの朝青森を出た」と決然と語った。
陸軍の情報部員だった八児雄三郎さん(85歳・東京都中野区)は終戦を大分の陸軍司令で知った。陸軍中野学校の教育を受けた八児さんは「情報部員として本土の防衛にあたる」任務を帯びていた。
「『最後まで戦え』と教えられていたためアメリカが上陸してきたら反撃するつもりだった。『これは敵わない』と思ったのは夥しい艦船やブルドーザーを見た時だった。飛行場だってブルドーザーであっと言う間に作ってしまう。我々はスコップだったからね。そうして終戦から2ヶ月経った10月には敗戦を受け入れた」。軍服に身を包んだ八児さんは眼差しを遠くに置きながら話した。
「きょうはビルマ、満州の戦線で亡くなった戦友のお参りに来た。菅政権はおかしい。亡くなった人は国のために戦った。我々が平和に暮らしているのは戦友たちがいるから」。八児さんは顔を赤らめながら語った。
政権交代後、国立追悼施設をめぐる議論は宙に浮いたままだ。靖国神社のあり方についてもあたらず触らずの状態となっている。「戦後の平和と繁栄の礎」を築いてくれた戦没者の霊に応える義務が政治にはある。
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