エジプト国境沿いの都市ラファを訪れた。国境のフェンスから50mと離れていない地区には、こんもりとした土山とテントが無数に並ぶ。巨大なモグラが何百匹も出現したのかと思わせる。エジプトにつながるトンネルを掘っているのだ。
周辺の建物はイスラエル軍の猛爆撃で壊滅している。一望、瓦礫の原だ。イスラエル軍がトンネルを潰すために集中的に攻撃したのである。
カメラを構えると「写真を撮るな!」と鋭い声がどこからともなく飛んでくる。イスラエル軍に場所を特定され、また爆撃されることを警戒しているのだ。
国境を封鎖しても、このトンネルでエジプトから物資が運び込まれてくる。食料品、たばこ、医薬品、ガソリンといった生活必需品が中心だ。
イスラエルは「ハマス」が兵器や兵器部品をトンネルで持ち込んでくると見ている。瓦礫になるまでイスラエル軍が爆撃し尽くしたのはこのためだ。
トンネル業者によればトンネルの数は全部で約1,500本。短いもので400m、長いものは800mある。約20mの深さから横に掘られている。イスラエルはハマスが400~600本を運営しているとする。全体の6割方を爆撃で破壊したとも言う。
トンネル業者は「800本が破壊された」と話し、イスラエル側の説と符合する。現在、掘削しているのは、正確に言うと破壊された800本の修復作業だ。800本ほぼすべての修復作業が進んでいるそうだ。イスラエルの攻撃が止んだ翌日から早速、トンネル復旧工事を始めたというから驚く。精強なイスラエル軍を敵に回して戦うパレスチナ人の不屈の精神だろう。
トンネルによる“輸入”を可能にしているのが、エジプトとのつながりだ。そもそもラファはエジプトに跨る。エジプトとイスラエルの和平合意(1978年)によって、シナイ半島はイスラエルからエジプトに返還されたが、ガザは盲腸のように残ってしまった。その境界線にあったのがラファだった。両方に跨っているのはこのためだ。
親戚同士でありながら片やエジプト側、もう一方はガザ、というケースは当たり前のようにある。上述のトンネル業者もエジプト側ラファの親戚から品物を仕入れている、という。
イスラエルにとって厄介なのはハマスが、エジプトを拠点とする「ムスリム同胞団」の“ガザ支部”であることだ。ムスリム同胞団はアラブ社会最大のイスラム原理主義ネットワークである。ガザのハマスをいくら叩いてもアラブ社会から絶え間なく養分が供給される仕組みがあるのだ。
ガザ市民の生活必需品を運ぶトンネルはハマスの命脈であり、イスラエルとパレスチナの戦いの縮図でもある。