【ハケンという蟻地獄】元派遣労働者900人が住居失う恐れ

 昨年末、社会問題化した大量の「非正規切り」で職と同時に住まいを失った労働者に自治体が公営住宅を格安で貸与した、というニュースがあった。杓子定規の役所にしては粋な計らいだと感心したものだが、やはり役所はどこまで行っても杓子定規だ。

 貸与期限を6ヶ月と区切り更新はしないとする自治体は175もある。そこの公営住宅に住む約900人(国土交通省住宅局まとめ)は、再就職のメドがついておらず路上に弾き出される恐れがある。

 神奈川県営住宅「いちょう団地」(横浜市泉区)のケースを取材した。同団地には「非正規切り」に遭った72人が暮らす(9日現在)。ほとんどが自動車や電機の工場で働いていた元派遣労働者だ。2人1組で3DK(団地サイズなのでマンションより狭い)に住み、家賃は月々3,500円(1人分)。退去期限は6月30日だ。

 ところが再就職が決まっているのは、わずか2~3人という。神奈川県の有効求人倍率は0・46(4月)。机の上の計算では2人に1人しか仕事にありつけない。マッチングの問題もあり、現実に職が見つかる可能性はさらに低い。

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佐藤さんは同年代の元派遣労働者と共同生活をする(横浜市泉区・いちょう団地で。写真=筆者撮影)

 「いちょう団地」に住む元派遣労働者たちもハローワークに足を運んでいるが、なかなか見つからない。ハローワークは「介護」をしきりと勧めるが、工場勤めが長かった身には合いそうにもない。

 横浜市内の電機部品工場で働いていた佐藤和也さん(29才・仮名)は、ハローワークを通して新聞販売店に応募したが、いつまで経っても返事は来ない。退去期限はあとわずかだ。「フリーペーパーの求人誌をめくってみるが、(まともなのは)月収10万前後のアルバイトしかない」と溜息をつく。実際、この種の雑誌に紹介されている企業で月収20万円を超すのは、危ういところが多い。死ぬほどこき使われたり、ありとあらゆる理由をつけて20万円払われなかったりだ。

 格安の県営住宅を出て民間のアパートで生活するには、月収それも正味20万円はどうしても必要だ。佐藤さんは「退去期限を延長してもらうか、代わりの公営住宅に入れてもらわないと、ホームレスになる」と不安を募らせる。

 「いちょう団地」に身を寄せる元派遣労働者のうち再就職が決まっている2~3人を除けば、事情は皆佐藤さんと同じだ。このまま「6月30日」の期限を迎えれば、昨年末と同じように住まいを失う。

 元派遣労働者の窮状に団地の自治会も支援の手を差し伸べた。派遣ユニオンを加えた3者は、神奈川県に「期限の延長か代わりの公営住宅を提供するよう」申し入れた。

 2度にわたる交渉の結果、神奈川県は次のように方針を固めた―職業訓練を受けることが決まっている15人は、退去期限を8月中まで延長する。残りの67人は国(厚生労働省)や横浜市と連携して、「生活保護」「就労支援」などの施策を行う→民間のアパートに移ってもらう。

 就労支援といっても職業訓練教室に入るには、今や高い競争率を潜らねばならない。難関だ。「就職安定資金・融資制度」は審査が厳しく、見事手にした人を探すのが難しい。宝くじに当るようなものだ。

 生活保護も延長は厳しい。横浜市はともかく厚労省は腰が重い。柔軟な対応は期待できないが、年越し派遣村の再現は避けてほしい。

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