「最底辺で働く者の声を政治に反映させよう」と自動車工場の元派遣労働者が衆院・東京比例区に社民党から立候補する。国政に挑戦するのは池田一慶さん(29歳)。
池田さんは高校理科の教師を目指していたが願いはかなわず2005年春、大学を卒業すると派遣会社の日研総業に就職。送り込まれたのが日野自動車の工場(東京都日野市)だった。
昼夜2交代で来る日も来る日もギア部品のラインに立ち、重い物では50~60キロもある鉄の塊(かたまり)を加工枠にはめ込んだ。骨がきしんだ。人間をロボット代わりに使う究極の単純作業を2年余り続けた。
派遣会社から日野自動車へは「出向契約」だったはずが、実際はそうではなかった。百パーセント、自動車会社の指揮命令系統の下で働いた。偽装請負のはしりだ。池田氏は「『偽装出向』ですよ」と忌々しそうに当時を振り返る。
企業の都合しだいで簡単にクビを切られ、賃金も安い(直接雇用の期間工よりも年収で100万円の差)。重労働であるにもかかわらず、単純作業に従事させられるためスキルは身につかず、再就職には著しく不利……。
「劣悪な派遣社員の地位や権利を向上させよう」と同僚と共に06年にNPO法人『ガテン系連帯』を設立した。『ガテン系連帯』の本領は昨年末、社会問題となった「派遣切り」で発揮された。
「大分キャノン」で働く非正規労働者約500人が「解雇は12月10日。3日後に寮から出て行くように」と通告される“事件”が発生した時のことだった。池田氏は『ガテン系連帯』の仲間と共にすぐさま大分に駆けつけ、会社と交渉した。交渉の甲斐あって「大分キャノン」の非正規労働者とその家族は寮にしばらく留まることができるようになった。冬空の下、路頭に迷わなくて済むようになったのである。
「派遣労働者がビクビクしなくて済むように法律を変えたい」。派遣問題に取り組む社民党の福島みずほ党首の勧めもあり、池田氏は国会議員を目指すことを決めた。
「池田氏を国政に送り出そう」と励ます会が16日、都内で催された。かつての池田氏と同じ境遇に置かれている非正規社員や、いつ潰れるかわからない会社で働く労働者たち約200人が駆けつけ、エールを送った。
工場労働者の惨状を書いて(『自動車絶望工場』)センセーションを呼んだルポライターの鎌田慧さんの姿もあった。鎌田さんは「非正規労働者を正規化する労働運動の大きな流れを作りたい」と呼びかけた。
池田氏がそれに応えた。「(年の瀬の)派遣村よりも今はさらに深刻な状況になっている。バラバラになった労働者たち失業者たちを団結させるのが僕の使命だと思っている」。
『派遣の立場から社会を変える』と書かれたタスキが、池田氏のポリシーを雄弁に語っていた。選挙戦は工場労働者の象徴でもあるツナギで臨む。