日本郵政グループの株式売却凍結法が4日、成立すると、いち早く反応したのは金融業界だった。金融業界諸団体は「経営圧迫を憂慮する」旨のコメントをこぞって発表した。
日本郵政の預金残高は3大メガバンク(東京三菱UFJ、三井住友、みずほ)の合計を上回る。それが再び政府の管理下に入り金融業界のコントロールの効かないところに置かれるのだから、身構えるのも当然だ。
株式売却凍結法の成立直後、記者会見した亀井静香金融・郵政担当大臣は「今の金融機関が国民のかゆい所に手が届くようなことをやってくれればいいんだけど(そうではない)。郵政事業は役割を果たして行きたい」と述べて、資金繰りに窮する中小零細事業者への融資に乗り出すことに意欲を示した。
郵政の真骨頂は地方の隅々にまで張り巡らされたネットワークだ。これを利用すれば、青息吐息の地場産業に融資することは十分可能だ。郵政の資金力を持ってすれば、景気後退で瀕死の地方経済を蘇らせることも夢ではない。地方ばかりではない。首都圏や中核都市の中小零細も息をつなぐことができる。
だが、郵政が融資に乗り出せば銀行やサラ金の縄張りを奪うことになる。金融業界や財務省の不興を買うことは避けられない。金融業界は財務省の天下りを大量に受け入れているからだ。
サラ金業者は鵜飼の鵜だ。銀行は鵜匠である。金融業界は「サラ金の貸付金利の利上げ」と「総量規制緩和」を政界に強く働きかけている。不況の煽りを受けてサラ金の業績が落ち込んでいるからだ。
亀井大臣率いる金融庁は、利上げも総量規制緩和も認めない方針だ。このうえ郵政が融資事業に乗り出したらどうなるか。「金融業界・財務省VS郵政」の全面戦争に突入することもありうるだろう。
亀井大臣が大物大蔵次官だった斎藤次郎氏を郵政社長に任命したのは、財務省を抑え全面戦争とならないようにするためである。10年に一度出るか出ないかの大物次官が日本郵政の社長となったことに財務省は戦々恐々としているそうだ。「天下り人事はけしからん」とする評論家のコメントや新聞論説が世を賑わしているが、それは事の本質から外れている。
亀井氏は地元(広島6区)で資金繰りに困った中小零細企業が倒産し、果てに経営者が首を吊った現実を見てきた。「金融機関が中小零細に手を差し伸べていたら…」との思いが強い。政府系金融機関や信用金庫、組合をバタバタと潰した「小泉・竹中改革」への憎しみも深い。郵政民営化は亀井氏を自民党から追い出したが、今その亀井氏による全面見直しが始まった。武闘派の本領発揮だ。
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