原発を受け入れた自治体(周辺も含む)は電力会社からの多額の寄付などで潤ってきた。財政が多少楽になれば税金も安くなる。現職首長は大喜びである。言い方を換えれば、電力会社はカネで自治体を大人しくさせてきたのである。
福島第一原発から20~30キロ圏内の南相馬市は、東京電力から「ビタ一文」も受け取っていない。「配下でないからイイや」と思ったのか、東京電力は南相馬市に対して社会的常識を欠く対応を続けた。桜井勝延・南相馬市長へのインタビューを基に話を構成する(『 』が桜井市長の言葉)――
『東電が南相馬にやっと来たのは3月22日だった』。事故発生から11日目のことである。それまでは電話一本よこさなかった、という。『お詫びに来たのは東電(本店)の立地部長と福島原発第一副所長』。
『東電がモニタリング調査などのデータを送ってくるようになったのは24日から』。事故から2週間近く経ってからだ。
『人をよこせと東電にやかましく言ったら25日から東電の職員が(市役所に)張り付くようになった』。東電職員が仕事をする一室は南相馬市役所3階にある。筆者は部屋を覗いてきた。そこには暇を持て余す東電職員がいた(写真下段)。5人もいて仕事は東京本店の事故対策本部から送られてくるモニタリング調査を市長室に持って行くだけだ。
飽くことなく利益を追求するが、1円の出費さえケチる。老朽化した原子炉を危険性も顧みずに使い続けたのは東電の体質を象徴している。東電は南相馬市への対応でも吝嗇ぶりを発揮した。
南相馬市からの避難民は市外・県外の200か所に点在する。市役所は職員を派遣しなければならない。
市役所の公用車だけでは足りない。レンタカー30台が必要となった。市側が東電に「レンタカー代を持ってほしい」と要請した。だが東電の返答は十分なものではなかった。
「内部留保が数兆円もありながら、 マスコミを数十人も引き連れて中国旅行に行くカネがありながら、原発事故被害者に出すカネは徹底してケチる。東電幹部の人間性を疑いたくなる姿勢だ。
東京電力は福島原発周辺の10市町村に見舞金として一律2千万円を支払った。「住民一人ひとりに直接配って回るべきだ」との意見が地元民から出たようだ。
かりに東電が住民一人ひとりに渡したとしよう。南相馬市の場合だと市民一人当たり「280円」となる。人口の少ない川内村でも5千900円だ。東電が避難所の住民に直接渡せない理由である。
この会社の吝嗇ぶりは、人間のなせる業ではない。
桜井市長は市役所を訪れた鼓紀男副社長に言った。『最後まで責任を持ってもらうよ』。
鼓副社長からは「誠意を持って対応します」と判で押したような答えが返ってきた。
『東電ってのは誠意ないねえ』、桜井市長はただただ呆れるばかりだった。
~つづく~
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