サルデーニャ島南西部に位置するクイッラ村は、ブドウ畑とオリーブ畑が広がる山あいの田園地帯だ。野鳥のさえずりが長閑に響くが、すぐに普通の田園地帯ではないことに気づく。
「ドーン、ドーン」、断続的に響く破裂音が静けさを引き裂いて恐怖心さえ抱かせる。村には軍事演習場があるのだ。1万2,000㌶の広大な演習場はイタリア軍の所有だが、“入場料”を取って他国の軍や兵器メーカーに使わせている。
地元紙『LA ・NUOVA・ SARDEGNA』のジュゼッペ・チェントレ記者によれば、演習場を使っているのはロシア、イラン、米軍、仏、独、アラブ諸国の軍隊と各国の兵器メーカーだ。同盟国も敵国もあったものではない。
頻繁に行われるのは対戦車ミサイルや地対艦ミサイルの試射だ。繁忙期には対艦ミサイル試射のため島付近の海域と空域はひと月に20日間も立ち入り禁止となる。
同紙の編集部で読者から送られてきた動画を見た―ドイツ製の地対艦ミサイルが海面スレスレに飛び仮想敵艦(廃船利用)に見事命中、敵艦は大破する。
演習場の使用料は1日につき120万ユーロ(1日=約1億2千万円)。イタリア軍は多額の収入を得て恵比須顔なのだが、周辺住民は恐怖におののいている。
白血病や癌を発症する住民や軍関係者が増え、奇形の子供や家畜が生まれている、というのである。双頭の羊、目が後ろについた子牛が事態の深刻さを証明している。
原因はミサイルの弾頭に劣化ウランを使用しているためと見られている。政府は「劣化ウラン弾は使っていない」と主張しているが、信ぴょう性は低い。他国軍の弾頭の成分まで関与できないからだ。
村の幹線道路沿いにカフェがあった。村人に話を聞こうとしたがキッパリと断られた。取りつく島もないとはこのことだ。
村人に限らずサルデーニャの島民にとって「クイッラ演習場」について話すのはタブーであるようだ。地元環境団体のメンバーに案内を頼んだが断られた。「代わりの人も紹介できない」とまで言われた。
チャーターした車で演習場に近づいた。「ミリタリーゾーン」の看板が居丈高に立ち、鉄条網が農地を分断する。一番奥まった場所にあるミサイル試射場には農道を伝って行ける。取材車を進めた。
だが筆者と取材車の動きは山の頂上にある監視台から追われていた。すぐに軍のジープが立ちはだかった。兵士がもの静かだが厳然とした口調で言った。「帰れ、必ず帰れ。もし撮影したらカメラを没収するぞ」。ジープは我々がミリタリーゾーンを出るまで追跡してきた。
各国が入り乱れて夥しい数の劣化ウラン弾を試射する演習場。周辺住民の健康と家畜に被害が出ていても、村の外に大きく伝えるのは至難の業なようだ。