公園などの土壌からチェルノブイリ原発事故の避難区域をも上回る放射性物質が検出される福島市。空気線量も国が避難基準に定める年間20mSvを超す可能性が高い地点が広がる。
「危険な汚染地帯から避難させてほしい」。福島の住民たちが19日、福島市内で政府の現地対策本部と交渉を持った。(主催:子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク/フクロウの会/FoE Japan/御浜の会/グリーンピース・ジャパン)
だが霞が関から出向してきた役人からは、明確な回答は何ひとつ得られなかった。
住民側からは子供の被曝低減や除染などについて「6項目の要望と11項目の質問」が出された。現地対策本部は返答に窮すると決まって「我々は実施部隊、意志決定はできない」とかわした。要望項目と質問はあらかじめ政府に提出したものばかりだ。政府も判断せず、現地対策本部も答えない。
公務員の無責任さを象徴するようなやりとりがあった。「給食の食材についてモニタリングを実施する予定はないのか?」との質問項目に現地対策本部は判で押したように「我々は実施部隊、お答えすることはできない」と回答した。
ところが、ある父親は次のように証言する。「福島産の牛乳を出しているので校長に『不安だから水筒持たせていいか?』と聞いたら、校長は『国が安全だと言っている』と言って突き放された」。
これでは、どこが責任を持つのだろうか?住民側が問い詰めると、現地対策本部は「健康調査は県がやっている」と答えるありさまだった。
あまりの無責任さに業を煮やした母親が決然と立ち上がった。子どもたちを放射能から守る福島ネットワークの佐藤幸子さんだ。佐藤さんは正面の現地対策本部席に進み出てペットボトルを突き出した。「今朝、採った尿です。子供たちは被曝してるんです。子供たちの体内被曝を政府が調査してください」と厳しく迫りながら。
だが、対策本部の役人はペットボトルには目もくれなかった。さらに彼らが住民の健康などこれっぽっちも考えていないことを示す出来事があった。
住民票を福島に置いたままで、一時的に学校ごと地域ごと避難する「サテライト避難」はできないものかと、ある父親が質問した。すると現地対策本部・住民支援班の佐藤暁室長(経産省出身)から耳を疑うような回答があった。「自己の判断に基づいて避難して頂くのは結構ですが、国が安全だと認める所については、強制することなく留まって頂くことを施策としてやっていく」。
政府の本音が出たのである。住民から「危険な所にそのまま居続けろというのか?」「今の発言を撤回して下さい」の怒号が飛び、会場は騒然となった。
佐藤室長には「避難と1mSvの法定順守」を求める1万3,685筆の署名が提出されたが、持ち帰ろうとさえしなかった。だが佐藤幸子さんが追いすがり、力づくで持たせた。
行政の無策のなかで、あるのは政府と現地対策本部と学校現場が責任をなすりつけ合う構図だけだ。置き去りにされる子供はたまったものではない。