緊急時避難準備区域に続いて国が解除を目論むのは計画的避難区域だ。緊急時避難区域と同様、除染が頭の痛い問題となる。東電福島第一原発から最も近い所で北西に30キロ離れた飯舘村は、事故から一ヵ月間、たっぷりと放射能を浴びた後、計画的避難区域に指定された。
菅野典雄村長は先月28日、総額3224億円からなる除染計画をまとめた。除染計画には先々困難を極めるであろう問題が2件ある。1件目は一次貯蔵施設だ。村には国有林が多いことから、いずれかの国有林の一角に施設を設けるものと見られている。
海抜の高い飯舘村は相馬市、南相馬市などを流れる川の上流にあたる。飯舘村だけでなく下流域の自治体も放射能汚染する危険性があるのだ。
ある村人(30代男性・自営業)はこんなことを話す。「沖縄県民あげて普天間基地の立ち退きを叫んでも、基地は動かない。貯蔵施設も同じようなことになるんだろうなあ」。
残る1件は、田畑の除染だ。田畑は通常の除染のような表面剥離では済まない。土壌が柔らかいため放射性物質が深く浸透しているからだ。猛毒プルトニウムは比重が重いためもっと深く浸透している。
田畑の除染は学校のグラウンドなどと比べると深い所まで土を入れ換えなければならない。ところが、その部分こそが穀物や野菜、果物を育んできた肥沃な農地なのである。田畑の土を深い所まで入れ換えるということは、農地を殺すようなものだ。
3日夜、福島県民ホールで「飯館村の今後を考える討論集会」が行われた。村で、長年かけて「オリジナルじゃがいも」を開発した女性が発言した。「頑張ってオリジナルのブランドができたのに、原発事故で畑が放射能汚染された。除染しても先が見えない。頑張りようがない」。
「コストと労力をかけて作っても、汚染された地で採れたジャガイモに果たして値がつくだろうか?」という現実的な意見も出た。
原発事故後、間もなく飯舘村に入り汚染状況を調べた京都大学の今中哲二助教が答えた。「除染でゼロになることはない。半分になればいい方。まして畑は無理。チェルノブイリも除染はあきらめた」。
農業の現実に目を背けたまま帰還を急がせる、政府のなりふり構わぬ姿がある。