「モンサント=ガン」 米国のシェフが警鐘鳴らす遺伝子組み換え

遺伝子組み換え作物に反対するシェフの団体を作ったエリック・スミスさん。=11月8日、ウォール街ズコッティパーク。写真:筆者撮影=

遺伝子組み換え作物に反対するシェフの団体を作ったエリック・スミスさん。=11月8日、ウォール街ズコッティパーク。写真:筆者撮影=


 TPP加盟に血眼になる経団連の米倉弘昌会長が見たら、目をむいて怒り出しそうな光景がニューヨークにあった――

 超格差社会に抗議する庶民が占拠を続けていたウォール街ズコッティ公園。「MONSANTO=CANCER(モンサントはガン)」「Chefs Against GMO※(シェフらは遺伝子組み換え作物)に反対する」と手書きしたプラカードの傍らに立つ男がいた。服装が示す通り料理人だった。

 エリック・スミスさん(40代)。ニューヨーク市警により撤去されるまでは、キッチンで占拠者のために食事を作っていた。食材は寄付されたものが多いが、中には有機栽培で農場からの直送もある、という。

 遺伝子組み換え作物(食品)に反対する団体を作り、警鐘を鳴らすスミス・シェフに話を聞いた(「 」内が同氏の話)――

 「GMO(遺伝子組み換え食物)は本当の食物ではない。DNAを操作された種子には石油ベースの殺虫剤が入っており、化学物質が水、食物、土地を汚染する。継続して食べると体に毒が回り病気になる」。

 遺伝子組み換え食品は、発ガン性が指摘されている。安全性は確認されていないのだ。

 「GMOの種子は知的財産権を所持している。勝手に飛んできて成長し、あげくに『この種子は自分のものだ』と主張する。私はモンサントの営農方法に反対している」

 遺伝子組み換えされた作物のタネは一代限り。次世代にタネは残さないのである。このため農家は自家採種できなくなる。しかもモンサントは世界最強を誇る自社の除草剤と強い除草剤に耐えうる種子をセット販売するのである。“モンサント一社による農業支配”とされるゆえんだ。

 「我々は消費者として食物の中に何が入っているかを知る権利があり、どのように食物が作られたのかについても知る権利がある」

 スミス・シェフの言う通りなのだが、それを封じ込めるのがTPPの恐ろしさだ―
 『遺伝子組み換え食品』と表示したためにモンサントの売り上げが落ちたら『国際投資紛争センター』に提訴される可能性がある。同センターは米国が支配する世界銀行の傘下だ。訴えられた方は、ほぼ確実に敗訴される仕掛けになっているのである。

『モンサント=ガン』と手書きしたプラカード。経団連の米倉会長が見たら部下に命じて撤去させるだろうか。=ズコッティ公園。写真:筆者撮影=

『モンサント=ガン』と手書きしたプラカード。経団連の米倉会長が見たら部下に命じて撤去させるだろうか。=ズコッティ公園。写真:筆者撮影=


 TPPが取り沙汰され始めた初期の頃から反対の論陣を張ってきた田中康夫議員は、11月11日の衆院予算委で次のように野田首相を追及したーー

 「枯葉剤でベトナム戦争に貢献し、遺伝子組み換え作物市場で占有率9割に達する、米国のモンサント社と昨年、長期協力関係を結んだ住友化学で会長を務める日本経団連の米倉弘昌さんと貴方(野田首相)が手を握り合って進めようとするTPPに、多くの国民は疑問や不安をいだいていると思います」。

 TPPに大きく前のめりになる日本政府がGMO(遺伝子組み換え作物)を国民に食べさせようとしている現実をどう思うか?筆者はスミス・シェフに聞いてみた。

 「いかなる人もGMO食品を食べてはいけない。リアルフード・フォア・リアルピープル」。簡潔でシェフらしい答えが返ってきた。 

 TPPに加盟するとオーストラリアなどから安い農産品が入ってきて、日本の農業は壊滅的な打撃を受ける、とされている。だがもっと怖いのはモンサントによる日本の農業支配ではないだろうか。

 米倉会長が自社の利益のためにTPPに走るのは、企業人として当然かもしれない。だが一国の宰相が農業を米国のバイオメジャーに売り渡してどうするのか。「食糧の安全保障」まで米国に握られてしまうではないか。

 ◇
※GMO=Genetically Modified Organism(遺伝子組み換え作物)。

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