「原子力発電所の事故が発生したことにより、危険な区域に住む人々は住み慣れた、そして生活の場としていた地域から離れざるを得なくなりました。再びそこに安全に住むためには放射能の問題を克服しなければならないという困難な問題が起こっています」。
11日、国立劇場で行われた「東日本大震災・追悼式典」で天皇陛下が述べられた、原発事故に関するお言葉だ。NHKは追悼式典をライブで伝えた。生放送であるため陛下のお言葉は一言も漏らさず伝わった。
ところが同じNHKでも編集作業が加わるニュースでは「原発事故」の部分はカットされていた。民放もこの部分は省いた。このため、視聴者はインターネットや新聞などで全文をあたって読まなければ知ることはできない。
俳優の渡辺謙さんがダボス会議(1月25日)でスピーチした時も、テレビ局各社は原発事故に関する部分をカットしている。電力会社からの広告漬け、接待漬けに飼いならされてきた記者クラブメディアにとって、原発問題はタブーなのである。
天皇陛下は政治的影響などに配慮し発言を控えてこられたのだろう。一方、海の向こうのバチカンでは、昨年6月の時点でローマ法王が原発をめぐって踏み込んだ発言をしている。
当時、筆者は「原発推進の是非を問う国民投票」を取材するためイタリアに滞在していた。法王は「人類に危険を及ぼさないエネルギーを開発することが政治の役割だ」と述べ、自然エネルギーへの転換を促したのである。
筆者はバチカン市内で土産物品店の経営者などにインタビューした。市民はみな冷静に受け止めていた。「法王はもともと原発推進派だったが、福島原発の事故を受けて脱原発にスタンスを変えた」というのが市民の一致した見方だった。法王にとっても原発事故はそれほど衝撃的だったのだ。
法王の「脱原発発言」から3日後に原発の是非を問う国民投票が行われ、「原発反対」が多数を占める結果となった。国民の9割がカトリック教徒のイタリアで法王の「脱原発発言」が国民に与えた影響は小さくなかった。
日本人にとって天皇陛下のお言葉は、ローマ法王の「脱原発発言」に勝るとも劣らぬインパクトがある。テレビ局はそれを知っていたからこそカットした。
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