北九州市が放射性瓦礫を試験焼却した23日、市民の危機感は頂点に達した。前日、宮城県石巻市の瓦礫が搬入された日明焼却場(日明積出基地)の仮置き場ゲート前では、瓦礫が焼却工場に運び出されるのを阻止しようと、反対派10数人が立ちはだかった。ほとんどは前夜から仮置き場前に野宿した。
警察隊は門扉を背にピケを張った。前日と似たような展開だ。トラックはゲートの内側で動けずにいる。「業務に支障をきたします。移動して下さい」。市環境局の職員が壊れた蓄音機のように繰り返した。
「(トラックに)何が入ってるんですか?中味を見せて下さい」。反対派は頑として譲らない。
30分ほどニラミ合うと警察隊はゲート前を退いた。反対派に譲歩したわけではない。今度はピケを張って道路をふさいだ。警察隊の後ろ側には別の搬出口があるのだった。
瓦礫を積んだトラックは次々と斜向かいの焼却工場に走り込んで行った。前日が力づくだったのとは対照的に、警察はこの日、反対派のウラを巧くかいた。
前夜、熊本市から駆け付けた男性は悔しさを隠しきれない。男性は家族と共に昨年6月、東京小金井市から熊本に避難した。「子供を守りたい一心で家も仕事も捨てて九州に来たのに放射能が追い駆けてきた。ここ(北九州)がやっちゃたら、どんどん行く。泣き寝入りしたらいけない」。
警察は早朝から焼却場の500m手前でバリケードを設けて、関係者以外は立ち入れないようにした。瓦礫焼却に懸ける行政の意気込みがヒシと伝わる。
日が昇って駆け付けた市民は焼却場に近づくこともできない。トラメガで懸命に訴える男性は山口市から足を運んだ。「子供たちの未来を守って下さい。放射能で汚さないで下さい」。
男性は農業に従事している。「ジイちゃんもバアちゃんも畑をやっとるから放射能が飛んで来たら、せっかく育てた野菜がだめになる」と顔を曇らせた。
市民が最も恐れるのは、やはり健康への被害だ。福岡市から訪れた男性(30代)は結婚したてのホヤホヤだ。妻は妊娠6ヵ月だという。「命を守りたいだけなんや。子供にも病気になってほしくない。命を粗末にするんやない」。男性は叫びながら、目の前の警察官にマスクをプレゼントした。
前日、反対派の市民が瓦礫を積んできたトラックの傍で線量を測ったところ0・6μSv/時を記録した。計画的避難区域である福島県葛尾村の室内線量と同じ値だという。
それでも北九州市環境局は「安全だ」と言い募る。焼却場手前で警察に阻止された反対派がシュプレヒコールをあげていた頃、市民約100人は市役所に詰めかけ市長と環境局幹部に面会を求めていた。 ~つづく~
《文・田中龍作/諏訪京》
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