「いつかは爆発すると思ってるよ」原発労働者の居住地にすむ少年は、ビーチで友人達とサッカーの話題に夢中になりながらも、ぼそっと言った。少年の肩越しにアングラ原発が見える。
リオデジャネイロから切通しが続く道をバスで4時間ほど走ると、海岸が目に飛び込んで来た。アングラ原発のある、アングラ・ドス・レイス(Angra dos Reis)だ。大西洋特有の鮮やかな水色をした海が原発の前に広がる。
365もの島々が穏やかな海にぽっかりと浮かび、海ガメや希少な海洋動物に出会えるアングラ・ドス・レイス。絵葉書のような景色は、地上の楽園と呼ばれる。原発との不似合いなコントラストに言葉を失ったのは、筆者だけだろうか。
アングラ原発はリオデジャネイロから西へ100km、サンパウロから東へ200kmに位置する。現在、加圧水型原子炉2基(発電量=計195万kw)が稼働しており、新たに3基目の建設が進められている。
3基目は脱原発を決めたドイツから資金援助を受けた。原発をめぐる皮肉な構図がそこにある。
産業のない過疎地が原発立地のターゲットとされる日本と違い、建設当時、独裁政権だったブラジルでは観光客の絶えないリゾート地に原発を立地したのだ。隣接する原発労働者の居住地内にはビーチまである。
アングラの街並みは、旧ソ連時代のウクライナに“存在した”プリピャチを彷彿とさせた。チェルノブイリ原発で働く労働者家族の居住地として作られた街で、高層マンションなど近代的な建物・病院・カルチャーセンター・公園など様々な施設が建てられ、緑も豊かだった(ウィキペディアより)。
居住地は子供達の笑い声が溢れ、ゆったりとした時間が流れる。庭付きの一軒家が立ち並び、学校や娯楽施設が揃う。その暮らしぶりは平均的なブラジル人と比べたら、随分いいようだ。
充実した社会保障と豪華な住宅を補償される原発労働は、希望者が後を絶たない。これもまた、アングラ・ドス・レイスが地上の楽園と言われるゆえんだ。
「福島原発事故は知っている?」筆者はビーチで遊ぶ子供たちに聞いた。
「もちろん知っているよ」
「ここに住んでいて怖くないの?」
「危険はあると思う・・・」
「事故が起きたときの避難計画はあるの?」
「毎年避難訓練をする。軍がヘリコプターで助けにきてくれるんだ」
少年達はそれ以上原発の話をしたくないのか、サッカーの話題に変えた。
福島の事故を受けてブラジル政府はアングラ原発の避難計画を策定し、住民への周知を図ってきた。だが避難計画自体が、日本と同様ズサンと言わざるを得ない。
主要都市からアングラまでの陸路は長い一本道以外にない。あとは、海路・空路での避難となる。船は海が時化たら出せない。ヘリコプターも強風だと飛ばない。もし悪天候の際に原発事故が起きたら、人々は恐怖の中に取り残されて被曝することになる。
~つづく~