「国連はもうダメだ」…現地のNGOからはこんな落胆の声が上がっていた。20年ぶりにブラジルで開かれた「リオ+20」に対して、NGO環境各団体から厳しい批判が相次いだ。
まとめられた成果文書のタイトルは、「われわれが望む未来」、しかしそこには未来を作るための具体策はなく、各国代表が予定通りの演説をして終了というわけだ。原発の今後については、つい1年3ヶ月前に最悪の原発事故を引き起こした当事国の日本からは、原発についての言及はなかった。他国も触れなかった。
福島・日本の現状を伝えに来た人々の想いも様々だった。福島の有機農家、福島 の母親、福島の若者、それぞれ現地記者会見やワークショップで発言をした。皆「原発はやめよう」という同じ想いのもと日本の裏側にあるリオデジャネイロまで足を伸ばしたが、伝わり方には差があったようだ。同時に原発にあまり触れたくない政府の思惑も見え隠れした。
日本から来た環境NGO「虔十の会(※)」代表、坂田昌子さんに、今回のリオ行脚の裏側を赤裸々に語ってもらった。
福島県民同士の対立
「(福島原発が)現在進行中でいつどうなるか分からない中、それでも、福島の土地で種を蒔いて作るんだ、という有機農家の立場と、もう福島のものを子供に食べさせられない、放射能に汚染されているかもしれないと思いながら子供に料理を作るのに罪悪感を感じていると訴えるお母さん。どちらも原発をやめてもらいたいという想いだが、有機農家にしたら、世界へ向かって福島のものが食べられないと訴えるお母さんが許せない。両者の間に対立があるまま、リオに来た。すごく難しい問題だ」。
「両者の溝が埋まらないまま、リオまで来た。とことん放射能に向き合い、除染をして作物を作る農家もいれば、国の安全基準で出荷する農家もある。たとえ10ベクレルでも、子供を被ばくさせたくないお母さんの心配もわかる。どちらも正解だし、間違っていない」。坂田さんは語る。
「この問題は、リオで始まったものではなく、日本国内でずっとあったもの。今まで両者がきちんと話をする機会がなかった。日本へ帰ってからの課題となった」。
坂田さんは日本政府の思惑についても語ってくれた―
「『リオ+20』の日本パビリオンで『ふくしま発、有機農業・地域がつくる持続可能な社会への提言』という講演を企画している段階で、環境省から『タイトルから“福島”をはずしてくれ。東日本とグリーンエコノミーという題に変えてくれないか』と言われた」。
「それは絶対にダメだと言った。海外では『311』と言っても分からない人が多いのに、『東日本』なんていったら原発の問題だと誰も分からない。最終的には、『福島』という名前は残して講演をした。つまり、政府は原発の話はあまり出したくなかったということ」。
坂田さんは、政府主導の「リオ+20」の会場だけでは聞けない声を求めて、同時開催されているピープルズサミットで精力的に現地の人や各国NGOと交流した。
「成果文書に影響を与えることだけでなく、5万人以上集まっている各国の人々と繋がることの方が大事」。それが国際会議の意義だという。参加国の中には原発推進国も多い。主催国ブラジルは、2基の原発を持ち、3基目の建設を進めている。
「せっかく福島からきてくれた有機農家の話だったのに、聴衆はほとんどが日本人で意味がなかった。二度と(日本 パビリオンで)やるもんかと思った」。
坂田さんはその後、なんとかピープルズサミットでの記者会見で他国の参加者にアピールが出来てほっとしたようだ。
日本政府は「脱原発依存」と言っただけで、撤退か推進か方針を明らかにしていない。国際会議で原発について発言すれば、追及されるからだろうか。ダンマリを決め込んだのだった。
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※虔十の会
宮沢賢治の童話「虔十公園林」から名前をとり、次世代に「かしこくない」と思われる行為をするべきではないという理念のもと、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済成長とは別の方法を高尾山の自然保護を通じて提案している。http://homepage2.nifty.com/kenju/index.html
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諏訪記者は当方が旅費を一部援助しただけで、自費によりブラジル取材に行っております。