原子力マフィアはどの国も同じような体質だが、ブラジル政府の原発推進政策は、日本に負けず劣らずえげつない。
ターゲットはやはり子供だった。アングラ原発からバスで40分程度、直線距離にして約20キロに位置する市街地の中心にある古い修道院。電力会社(Eletrobras Eletronuclear)とブラジル鉱山・エネルギー省が共同で運営する原子力情報館が、その一角にある。
情報館には、「原子力エネルギー」を賛美する子供の絵画が展示されている。市内の学校から優秀な生徒を選抜し、描かせたのである。どこかで聞いた事がある話だ。日本で事故前まで行われていた「原発ポスター展」と全く同じではないか。
原子力情報館の女性も当然、原発の“素晴らしさ”を説く―
「ブラジルはウラン原産国だ。だからそのウランを使うべく原発をもつべきだ。小さなウランパレットから、たくさんのエネルギーが得られる原発は、安くてクリーンなエネルギーだ」。
「福島の事故が起きた後、原子力エネルギーに対する考えは変わりましたか?」
「まぁまぁ、落ち着いて」。
筆者はかわされてしまった。
福島の事故をめぐる町の人の反応はどうだろうか。市内ホテルの受付係(20代・女性)に聞いた。
「日本の原発事故は、死者を何人か出した後、すでに収束していると思っていた。アングラ原発が危ないと思ったことは一度もない」。
リオデジャネイロ大学の学生の態度は受け身だ。「最近は福島事故についての報道は全然ない。原発については反対とも賛成とも言えない。大学では反対を訴えている人もいるけれど…」。
政府の安全キャンペーンの賜物だろうか。日本で言えば大熊町や双葉町に当たる原発近隣に住む人々でさえ、福島事故を経ても、危機感はあまりないようだった。
とはいえ、一筋の光明もある。電力会社の中からも原発に疑問の声を上げる人が増えているのだ。Eletrobras(電力会社)のエンジニア、ルイ・マルコス(Ruy Marcos)さんは、密かに外で声を上げている。
「作業者の半分以上は、原発について何かおかしいと感じている。原発が無くても十分電気は足りるし、放射性廃棄物の問題についても何も話されていない。アングラ原発のある場所は大雨の際には地滑りの可能性もあり危険だ」。ルイさんは、リオ市内で開催されたウラニウム映画祭で語った。
原発労働者の子供達が感じる不安。原発裏の急斜面で見られた土砂崩れの跡。日本で事故の原因とされた「ヒューマンエラー」。事故の引き金はどこに潜んでいるか分からない。日本から遠く離れたブラジルで、福島原発事故が早くも忘れ去られようとしている。