リトアニアの首都ビリニュスから車で3時間近く北へ走ると巨大なコンクリートの廃墟が現れる。2本の大きな煙突が所在なく突き出したままだ。
EU加盟の条件として2009年に運転を終了したイグナリナ原発は、湖沼と針葉樹に囲まれた都市ビサギナスにあった。チェルノブイリ原発事故による被害をまともに受けたベラルーシとの国境に近い。ソ連風のアパートが並ぶビサギナスは、文字通り「原発の街」だった。
原発稼働中(1987~2009年)、街の人口は3万5千人を超えたが、原発が停まると5千人の原発労働者が、故郷のロシアなどに引き揚げていった。こう書くと、日経や産経新聞が喧伝するように「原発は雇用のために必要だ」となる。
ところがイグナリナ原発は、廃炉作業で新たな雇用を産んでいるのだ。発電所関係者によれば、その数約1,500人。筆者が訪れたのは、あいにく土曜日だったため、作業風景を覗くことはできなかった。
家族を加えれば5,000人近くが廃炉で生活する。街には西欧風のショッピングセンターもできた。
14日に建設の是非が国民投票にかけられるビサギナス原発は、イグナリナ原発の隣の敷地が用意されている。
イグナリナ原発はチェルノブイリ事故(1986年)の『翌年』に稼働を始めた。後継にあたるビサギナス原発が福島事故の『翌年』に国民投票でノーを突きつけられたら、歴史の因縁なのだろうか。それともリトアニアがソ連から独立して加わった西側の民主主義の勝利なのだろうか。 ~つづく~
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