「東電情報隠し」の裏で進行する放射能汚染 ~その7~

制御不能になった制御室。はがれ落ちそうな天井の金網が地震の激しさを物語る。(24日午後1時、1号機中央制御室。写真提供:東京電力)

制御不能になった制御室。はがれ落ちそうな天井の金網が地震の激しさを物語る。(24日午後1時、1号機中央制御室。写真提供:東京電力)

 危険な施設で最も危険な作業に従事させられ犠牲となったのは、下請け作業員たちだった。

 放射能漏れが指摘される福島原発3号機で24日、復旧作業にあたっていた作業員3人が被曝、うち2人はβ線火傷を負い病院に搬送される事故が起きた。

 東電によると3人がいたのは3号機タービン建屋の地下一階。水深30㎝(後に15㎝と訂正)の所で電源ケーブルを敷設する作業にあたっていた。

 病院に搬送された2人は短靴しか履いていなかったため、くるぶしから放射性物質の含まれた水が入りβ線火傷を負ったものと見られる。残る1人は長靴を履いていたため事故を免れた。

 3人の被曝線量は173~180ミリシーベルト。医療法施行規則(第30条の27)は、原発作業員の被曝線量の上限を、年間で50ミリシーベルトと定めている。3人の被曝線量は安全基準を遥かに上回る被曝であることは明らかだ。

 事故当時、水の線量は400ミリシーベルト、室内(空気)の線量は200ミリシーベルトだった。危険な環境下で作業にあたっていたことがわかる。作業時間は40~50分。

 24日夜の記者会見では、東電の隠ぺい体質が改めて浮き彫りになった―

 東電によれば、携帯用警報器(アラーム)は20ミリシーベルトに設定されていた、という。10倍の200ミリシーベルトの線量があった作業現場ではけたたましくアラームが鳴っていたはずである。

 筆者と広報担当者は次のようなやりとりをした―

「40~50分間もいてアラームに気が付かないはずがない。作業員は引き揚げたくても引き揚げることができなかったのではないか?」

「作業員が引き揚げることができる状況にある」
(「引き揚げることができる」とは言わない。実にあいまいだ。)

「状況にあるといっても東電と下請けの力関係からして、東電から『やれ』と命令されたら、引き揚げることができないのでは?」

 某紙の記者が聞いた。「作業員は1次下請けか?それとも2次、3次下請けなのか?」

 「それは確認が取れていない」。広報担当者は苦しそうに答えた。契約している東電が知らないはずはないのである。ただ広報担当者には知らされていないことはありうる。

 東電は作業員の会社名も明かさない。「プライバシーに関わる」という口実だ。

 筆者は「作業員から実情を聞かないことには真相は藪の中ではないか?どうして隠すのか?」と食い下がったが、無駄だった。

 放射線量の高いエリアで作業する場合は放射線管理員(東電社員)が付き添うことになっているが、同行していなかったという。

 「危険性が高いため下請け作業員だけで現場に行かせたのではないか?」と筆者。

 「安全を最優先に考えております」、広報担当者は判で押したように答えた。

 今回の福島原発事故では原子力保安院の検査官が事故後、現場から一週間も逃避していたことが明らかになっている。

 東電が安全管理など二の次であることは言うまでもない。国民の生活を預かる政府機関までもが安全管理を投げ出していることには改めて驚く。

 「人命軽視とも言える杜撰な安全管理が今回の大事故につながった。ここで隠ぺいして繕うと、次はもっと大きな事故を起こす」。筆者はこのように広報担当者に言った。

 東京電力という会社の情報隠ぺいと無責任体質は、何の権限もない下っ端に文句を言ったところで変わるものではない。政府、マスコミと三位一体となり長年かけて築きあげてきたのである。


田中龍作の取材活動は読者に支えられています。

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