「東電に賠償させる方法教えます」 弁護士が説明会

紛争審査会の指針は難解なため、弁護士がスクリーンを使って賠償請求の方法を分かりやすく説明した。(16日、弁護士会館・霞が関。写真:筆者撮影)

紛争審査会の指針は難解なため、弁護士がスクリーンを使って賠償請求の方法を分かりやすく説明した。(16日、弁護士会館・霞が関。写真:筆者撮影)


 国家権力をも操る強大な相手から財産を毀損され、精神的肉体的苦痛を受けた場合、損害賠償を請求し勝ち取るのは並大抵の業ではない。福島第一原発の放射能漏れ事故の被害者たちがこうした状況に置かれている。政府の指示で避難した住民でさえ、巨額の自己出費を強いられたまま途方に暮れている状態だ。

 あれやこれやと難クセをつけて払うべき賠償金を払わないのが東京電力という会社なのである。「被害者を泣き寝入りさせてはならない」、弁護士たちが16日、「原発事故による賠償請求準備のための説明会」を開いた(主催:東京弁護士会、東京第1弁護士会、東京第2弁護士会)。

 こんな例がある。第一原発から20キロ圏内の浪江町に住んでいた男性は、会社の転勤が頻繁にあるため住民票を持っていなかった。だが電気料金や水道の領収書はあり、浪江町から義捐金を支給された証明書もある。

 にもかかわらず東電は「住民票がない」というたった一つの理由だけで、男性に「仮払い補償金」を支払わなかったのである。男性のようなケースが大量に出たため弁護士が東電と大がかりな交渉をした。結果、6月半ば頃から自治体が義捐金を支払ったことを証明するものがあれば、東電は「仮払い補償金」を支払わなければならなくなった。弁護士の交渉により住民はようやく仮払いを勝ち取ったのである。

 説明会は難しい概念をスクリーン上に図示しながら行なわれた。法律の素人である被害住民が“請求できない”と諦めそうなケースに力点が置かれた――

・一時帰宅も「避難費用」として請求できる。

・ガソリン代はレシートを持っていなくても、キロ当たりの値段で計算して請求できる。(着のみ着のままで逃げたのだからレシートをもらっている余裕などない、というのが理由である。紛争審査会の中間指針では「東電は証拠がなくても対応するように」と求められている)

・仮払いは後で東電に返金する必要はない。(事故発生から5か月が経つ。東電からの一世帯100万円(単身世帯は75万円)の仮払い金はすでに使い果たしている。これからさらに出費はかさむ。請求こそすれ返金する金などない、というのが理由だ)

 いずれも東電が拒否しそうな項目だ。実際、仮払いをめぐってある女性が東電から次のように言われた―浪江町でキャンプ場を経営していた女性は、政府の避難指示を受けて避難した。当然、キャンプ場は営業できない。彼女は収入源を絶たれたのである。
 にもかかわらず東電は仮払いの際、女性に「あくまでも仮払いですから余ったら返してもらいますよ」と言い放ったのだそうだ。

 住民が法律の素人であることにつけ込み東電は賠償金を踏み倒そうという魂胆である。

母親(91歳)の治療費をどう請求すればよいのかなどを弁護士に相談する女性。(筆者撮影)

母親(91歳)の治療費をどう請求すればよいのかなどを弁護士に相談する女性。(筆者撮影)


 説明会に出席していた老夫婦に事情を聞いた。二人は浪江町で暮らしていた。原発爆発直後の3月15日夜、役場の職員が来て「すぐに避難して下さい」と告げた。家財道具は何も持たず避難した。

 「交通費、宿泊費はもとより箸一膳、ふとん一組まで請求したかった。でもJAや漁協ならともかく個人で東電に請求しようとしても無理。こういった会ができて良かった。なかったら途方に暮れていたでしょうね」。奥さんの表情にはかすかに安堵の色が浮かんだ。

 説明会を主催した3弁護士会は「請求を紛争仲介センターに持ち込む場合は、着手金は頂かない」方針だ。紛争仲介センターは東電の損害賠償の枠組みを決める原子力損害賠償紛争審査会の下に置かれる組織で、プロフェッショナルの調査要員などを持つ。9月にも発足する。

 紛争仲介センターに持ち込んでも東電が支払いを拒否した場合は裁判となる。

 同弁護士会は今後、説明会を全国各地で催す予定だ。原発事故被害者が各地に避難しているためである。次回の説明会は8月27日に立川市の「多摩弁護士会館」で開く。

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