TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加に向けて政府首脳とマスコミが前のめりになるなか、「加盟阻止」を訴えて農家の青年たちが今日夕方から国会前で徹夜の座り込みを始めた。
夕闇迫る永田町に「TPP断固阻止」と染め抜いたハチマキとゼッケン姿で集結したのは、JA青年部(全国農協青年組織協議会)の約100人。北は北海道から南は九州まで全国の農業後継者が、かつて経験したことがないほどの危機感を募らせる。全品目輸入が自由化されると、コストの安い外国の農産品に太刀打ちできないからだ。国会前は緊張が張りつめた。
群馬県前橋市から駆け付けた新野見貴史さん(38歳)は、野菜農家だ。トマト、きゅうり、キャベツなどを栽培する。「日本がTPPに参加すれば農家を辞めなくてはならなくなる。それほど厳しい。世の中、不景気。群馬産は新鮮でも、海外産の安さには勝てない。参加してしまえば、日本産の米、牛乳、肉はなくなってしまう。そこまで急いで(TPPに)参加する理由はあるのか」。新野見さんは表情を険しくした。
神奈川県茅ヶ崎市で花き栽培を営む男性(20代)は、現状でも家族で食べていくのがやっとだ。ハウスで使う灯油代の高騰が強烈なボディブローとなっているためである。「野菜がダメになったら、野菜農家は花に流れ込んでくる。そうなると共倒れだ。TPPを推進している政治家はちゃんと農業の現状を見てほしい」。男性は悲壮感をにじませた。
アメリカが自動車などの輸入と引き換えに日本につきつけた「牛肉・オレンジの輸入自由化」(1988年に日米合意)を思い出す。地方のみかん山を歩きながら聞いた農家の怒り声が昨日のように蘇る。今、農家の危機感はその時以上だ。
この時期、たわわに実った稲穂を刈り取り、脱穀するのに追われているはずの働き盛りの男たちが座り込む。明らかに非常事態である。