オバマ政権―エルサレム問題でパレスチナ側へ配慮

 ウエストバンク入植地の建設中止をイスラエルに求めていた米国のオバマ大統領が、ブッシュ前政権との明確な違いを改めて示した。イスラエルの有力紙『ハアレツ』によれば、オバマ政権はテルアビブに置かれている米国大使館のエルサレムへの移転を見送った。

 日本をはじめイスラエルと外交関係のある国のほとんどはテルアビブに大使館を置く。国際社会がイスラエルの首都はエルサレムであると承認していないからだ。イスラム教第3の聖地アルアクサの丘があるエルサレムは、パレスチナ自治政府も首都であると「宣言」している。

 ガザの携帯電話ショップで女性店員に「エルサレムで購入した携帯はつながらないからね」と事情を話した際、「エルサレムはイスラエルの首都だからね」と迂闊にも口を滑らせてしまった。女性店員はすかさず「Jerusalem is our capital」と言い返してきた。女性店員は筆者がショップを去る際にも「Jerusalem is our capital」と念を押すように繰り返すのだった。エルサレムに対するパレスチナ人の並々ならぬ思いが伝わってきた。

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在テルアビブ米国大使館(写真:筆者撮影)

  一方、イスラエルも民族のアイデンティティーにかけて「首都=エルサレム」は譲れない。建国の精神となったシオン主義(シオニズム)の「シオン」とはエルサレムの古名だ。世界中に流散したユダヤ民族に「シオンの地に帰還しよう」と呼びかけ、ホロコーストを経るなどしてやっとの思いで建国に漕ぎ着けた。エルサレムとは民族を結束させるシンボルでもあった。

 ラビン首相とアラファト議長がノーベル平和賞を受賞した理由である「オスロ合意」(1993年)でも「エルサレム問題は最終的な局面で話し合い解決する」とされている。デリケートこの上ない問題なのだ。にもかかわらずブッシュ前大統領は、就任後間もなく「大使館をエルサレムに移転する」と発言し物議を醸した。

 前大統領に精神的な影響を与えていたキリスト教福音派(いわゆるネオコン)とは「アルアクサの丘を更地にしユダヤ神殿を再建すればキリストが再降臨する」と信じている人たちの集まりだ。アルアクサの丘は預言者モハメットがそこから昇天して神の声を聞いたとされる場所だ。イスラム教徒にとってはまさしく聖地である。そこを「更地にする」と言うのだから異教徒への冒涜も甚だしい。

 ブッシュ政権の8年間は、イスラム教徒にとって血塗られて屈辱的な8年間だった。仕上げが昨年末に始まったイスラエル軍によるガザ侵攻だった。オバマ政権の登場でパレスチナにバラ色の未来が訪れるわけではないが、イスラム教徒が大事にしているものが簡単に踏みにじられることはなさそうだ。

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