小泉政権が誕生した01年頃、国家財政は多額の赤字国債を抱え、金融機関は膨大な不良債権を負っていた。大型の企業倒産が相次ぎ、就職は氷河期。この国の経済はニッチもサッチも行かない状態だった。
「財政再建なくして景気回復なし。痛みに耐えて頑張ろう」。集団催眠にかけるような詐術的なフレーズと共に、ヤリ玉にあげられたのが『公共事業』と『社会保障』だった。基本政策ともなった「骨太の方針」により両者とも大ナタを振るわれた。
社会保障費は「骨太の方針」が実行に移された02年度から今年度までに8兆円も削減された(朝日新聞24日付)というから驚く。筆者は福祉の現場で悲鳴を聞いた。
障害者は介助費が1割負担となった。もともと収入が限られている身に余計な出費がのしかかった。時間でカウントされる介助費を削るためにトイレで食事を取る障害者まで現れた。
生活保護の母子加算である月々2万3千円の支給を廃止されたシングルマザーは、どこを削ってよいのかわからないほど切り詰めた生活を送る。ある女性は「食費を節約するために、ス-パーで安売りのウドン玉を買い込んで少しづつ食べて行く」と話してくれた。
生活保護の老齢加算を廃止された老人たちが「これでは生きてゆけない」として加算の復活を求める裁判を起こしたケースもあった。
母子、老齢加算を廃止した政府の言い分は「一般の母子家庭、生活保護家庭よりも消費が多いから」だ。このうち母子加算については比較対象世帯がわずか32軒だったというから、根拠が実に怪しい。いずれにしろ論理が逆だ。「苦しくても我慢している世帯があるのだから、お前らはもっと我慢しろ」を強いるのでは、政府が社会保障政策を放棄したに等しい。
一方で官僚に代表される国家公務員の特権は温存された。天下りなどに伴う官僚の無駄遣いは年に12兆円にも上る(衆院調べ)。年額12兆円もあれば、今日本が抱えるほとんどの問題は解決するであろう。
公務員は民間人よりも高い給与水準で事実上リストラはない。そんな彼らが格安の公務員住宅に住む。
税金を払って彼らの優雅な生活を支えている一般の国民は、高い賃貸住宅に住みスーパーの安売り食品を漁る。額に汗して働いていても、簡単にクビを切られる。
『痛み』に耐えなければならないのは、一般の国民だけだった。不評を買った「骨太の方針」は、総選挙を前に事実上撤廃されることが決まった。国民の骨だけがきしんだ8年間だった。