8日夕方6時から行われた野田佳彦首相の国民向け演説が、ラジオを通して官邸前の歩道に響いていた。「国民の生活を守るために大飯原発3、4号機を稼働すべきというのが私の判断」―野田首相がこう宣言すると、官邸前に詰めかけていた市民たちが一斉に「再稼働反対」の声をあげた。
参加者たちは声をふり絞り、「再稼働反対」の一語だけを繰り返す。まるで地鳴りのようだ。シュプレヒコールは35分間も続いた。
毎週金曜日恒例の抗議集会(呼びかけ人:首都圏反原発連合)だが、この日は首相の「再稼働宣言」が予定されていたため、集会開始前から尋常ならざる緊張感が張りつめていた。
「怒りで体が震えている。どう考えたって(再稼働は)おかしい。マスコミの皆さん報道して下さい。すべての原発を廃炉にしろ、と伝えてくれよ」。トップバッターとしてマイクを握った30歳の男性(会社員・都内在住)は、息をきらしながら訴えた。
60代の女性(神奈川県藤沢市在住)もスピーチした。「私は70年安保世代です。私たちの後悔は、こんなにも多くの原発を作らせてしまったことです。命を産み出す母親はそれ(再稼働)を望んでいない。野田さんの母親も同じです」。
首相の「再稼働宣言」をテレビで知り、駆け付けて来た市民も少なくない。歩道を埋める参加者の列は過去最長となった。最後尾は六本木通りまでいくらもない。交通整理の警察官に先頭から最後尾までの距離を尋ねると「200mくらいでしょうね」。
参加者の数も過去最多の4千人となった(呼びかけ人=主催者発表)。
「許せない、怒りで言葉も出ない、国民をなめるな」。都内在住の女性(30代)は筆者がジャーナリストと分かるや吐き出すように言った。
妊娠9か月の女性は重いお腹を抱えて参加したが、途中で気分が悪くなり列を離れた。「絶対動かしちゃダメ」と言い残して。
老いも若きも妊婦も原発の再稼働に反対しているのだ。野田首相は「福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っている。もし電源が失われるような事態においても炉心損傷に至らないことは確認されている」と豪語した。新たな安全神話を国民に吹聴したのである。
日本という国は、首相が原子力村の広報部長を務めているのだろうか。
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