さすが官邸報道部のカメラワークだった。首都圏反原発連合のメンバーが、原発を再稼働させた政策の矛盾点をズバリ突いても、野田佳彦首相の顔は撮らない。筆者はニコ生で視聴したが、ニコ生は官邸から提供された映像を流しただけである。
毎週金曜日、官邸前で行っている再稼働反対集会の主催者「首都圏反原発連合」が22日、官邸に乗り込み野田首相に直談判した。市民団体が運動の高まりを背景に時の最高権力者と面会するのは極めて異例だ。
政府に対する反原連の要求事項は次の通りー
1.大飯原発の再稼働を中止すること。
2.現在検査で停止中の全ての原発の再稼働をさせないこと。
3.国策としての原子力政策を全原発廃炉の政策へと転換すること。
4.原子力規制委員会の人事案の白紙撤回。
以上を反原連のミサオさんが粛々と読み上げた。この後、官邸に乗り込んだメンバーたちが次々と発言した。
「原子力規制委員会の人事は原子力規制法第7条7項に違反している。撤回してもらいたい」
「この夏、原発は大飯3号機、4号機が稼働しているだけ。原発がなくてもやっていけることが証明された。20~30年先と言わず、すぐにでも全ての原発を止めてほしい」
「(再稼働は)電力会社の帳簿上、原発がないと困るから。原発依存とは電力のことではない。ここにいる方もそれは分かっているはず」。
反原連側は再稼働に正当性がないことを徹底的に指摘した。
野田首相の回答は官僚答弁だった。官邸詰の官僚に作文してもらったのだろう――
「これまでの知見を踏まえたうえで安全性を確認し国民生活を考えたうえで
再稼働した。9月に発足する原子力規制委員会がこれからの安全性について確認する。人事は国会で決定する…」。
反原連のミサオさんは「承服しかねる」と野田首相の回答を一蹴した。「福島の事故が本当に収束しておらず、今、安全性を保てていない政府が、どうして安全だと言えるのか?」
政府側はグウの音も出なかった。だが、官邸報道部のカメラは政府側の方に首を振らない。
官邸から出てきた反原連の面々に野田首相はどんな顔をしていたのか尋ねた。「表情がなかった」「何かに操られているみたいだった」「人間として感じているのか、いないのか分からなかった」……返ってきたのは最低の評価ばかりだった。
ミサオさんが首相との面会に至った経緯を明らかにした。「最初は密室でと言ってきた。要求事項を読み上げるところは記者クラブさえも出て行ってもらう、ということだった」。
インディペンデント・メディアが同行できるよう、官邸側と粘り強く交渉してくれたのがミサオさんだった。だが、ひとっこ一人入れなかった。冒頭でも述べたが、ニコ生は官邸の映像を流しただけだ。
ミサオさんはインディペンデント・メディアが締め出された理由をこう明らかにした―「反原連と官邸の仲介者によれば、記者クラブが拒んだ」。
官邸で野田首相に語りかけたイルコモンズさんの言葉が、金曜集会に寄せる市民の思いを代弁していた―
「政府が子供にでも分かるような言い方で“原発を止めます”と言わない限り、僕らはこの抗議を決して止めない」。
『脱原発依存』『2030年までに』……政府の見解はいくらでも誤魔化しの利く言葉のオンパレードだ。野田政権のマヤカシを白日の下にさらしただけでも、反原連が官邸に乗り込んだ意義は大きい。
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