「原発要らない」「再稼働反対」…毎週金曜夕、市民たちがどこからともなく集まり、国家の中枢に向かってシュプレヒコールをあげる。官邸前の抗議集会(主催:首都圏反原発連合)が始まってから28日で半年が経つ。
第一声をあげたのは3月29日。陽が落ちると途端に冷たくなる春先の風が体温を奪うなか、約400人が集まり野田政権の原発推進政策に抗議の声をあげた。組織動員もなくネットや口コミで呼びかけ合った人々が官邸前に集まったのだ。
旗、プラカード、スピーチは原発問題だけに限る。再稼働反対で集まったのに防衛問題や貧困問題などについて説教されるようなことはない。思想や運動の押し付けのないことが敷居を低くした。
回を追うごとに参加者は増え、最盛期(6月末~7月末)には10万人をゆうに超えた(主催者発表)。警察の規制線が決壊し、車道に溢れた参加者たちが官邸に突入しそうになったのは、この頃だ。
国民的な盛り上がりに官邸もマスコミも無視できなくなった。8月22日、野田佳彦首相は主催者の代表たちと面会するに至った。官僚の操りロボットとはいえ、首相が市民運動のメンバーと官邸で公式に会談したのは、日本の政治史上初めてのことだ。
「半年もやっているということは喜ばしいことではない。原発が動いているということだからだ。だが、多くの参加者がここに集まり続けているということは凄いこと」。主催者のひとりミサオ・レッドウルフさんは感慨深げに話す。
福島県西郷村から駆け付けた女性(40代)は涙ながらに次のように語った。「文科省や経産省に何回も抗議に行ったが、全く変わっていない。そればかりか海外に原発を輸出しようとしている…」。
札幌を今月1日に徒歩で出発したという男性(元会社員・60代)は、きょう官邸前に着いた。顔は日焼けで真っ黒だ。「原発を止めたい一心で歩き通した。福島は(他県と)様相が違った。原発は動かしちゃ絶対だめ。これが民の声だ。何故この声が政治家に届かないのか」。男性はもどかしそうに語った。
脱原発を求める人々の気持ちとはウラハラに事態は悪化している。野田政権は精神論だけで安全性を謳い、原発ゼロを簡単に引っ込めた。「意見聴取会」「パブコメ」で「ゼロシナリオ」が圧倒的な割合を占めた民意は、どこに行ったのだろうか?
官邸前の金曜集会が始まって半年が経ったこの日、電源開発は大間原発の建設工事を再開すると発表した。~つづく~
(文・田中龍作 / 諏訪都)